抗体検証試験に朗報、その進捗とは?

プロテインテックは、RNAi技術を利用する遺伝子組換え操作によるKD(ノックダウン)試料を用いた抗体特異性の検証手法を同業者に先駆けて導入したメーカーです。抗体製品の検証にRNAi技術を導入する積極的な取り組みが評価され、引用数ランキング付の抗体検索サイトを運営するCiteAb(英国)主催の「2016 CiteAb Awards」において「Most exciting antibody validation initiative」を受賞しました。

 

抗体製品の検証試験は、繰り返し実施されるプロセスです。KD検証試験を導入して以来、プロテインテックは検証試験を実施した累計4,000品目を超える製品ラインアップで抗体試薬業界を牽引し続けています。

抗体特異性は、複数の独立した文献において研究者にとって大きな懸念材料であると述べられており(1~3)、ユーザーが新たな抗体メーカーを選択する際に最重要視されています(4)。


RNA干渉(RNAi)試験法は、ノックアウト動物モデルを用いる以外で、抗体製品の特異性を保証する最も信頼のおける検証方法です。しかしながら、現在のところ研究用試薬として抗体を製造・販売するサプライヤーでは一般的な試験方法としては採用されていません。プロテインテックは、RNAi試験法を今後すべての新製品に対して展開する予定であり、すでに現行製品に対して遡及的かつ段階的に実施しています。

RNAi試験を実施することで、研究者が抗体アッセイの予備実験に貴重な時間とリソースを費やす前段階において、データシート上で気軽に参照可能な「抗体検証のゴールドスタンダード」を樹立します。プロテインテックは、抗体業界で先駆けとなるこの特異性検証への取り組みが、検証試験の新たなベンチマークを定め、市販の抗体試薬の水準全体を向上させることにつながると考えています。

プロテインテック製品のsiRNA検証例

(左図)AKT1のsiRNA検証結果、緑:チューブリン、赤:AKT1(カタログ番号:10176-2-AP)、Eva Martinez-Balibrea博士提供
(右図)SDS-PAGE後、TARDBP/TDP-43抗体(カタログ番号:10782-2-AP、希釈倍率:1:1000)を用いてウェスタンブロットを実施したA549細胞(コントロールおよびTDP-43のshRNA処理)

 

検証に使用した抗体:

販売中の4,000品目以上の抗体は、siRNA処理サンプルで検証を実施しています。

ターゲット名 カタログ番号 アプリケーション 抗体タイプ
AKT 10176-2-AP ELISA, IF, WB, IHC, IP, FC ウサギポリクローナル
TDP-43 10782-2-AP ELISA, IF, WB, IHC, FC ウサギポリクローナル

オンラインデータシートに以下のアイコンを表示している製品は、siRNA処理サンプルによる検証を実施しています。

KD/KO Validated


参考文献

  1.  Couchman JR. Commercial antibodies: the good, bad and really ugly. J Histochem Cytochem.2009;15(1):7-8
  2.  Kalyuzhny AE. The dark side of the immunohistochemical moon:industry. J Histochem Cytochem.2009;15(12):1099-1101.
  3.  Pradidarcheep W, Labruyere WT, Dabhoiwala NF,Lamers WH.Lack of specificity of commercially available antisera:better specifications needed.J Histochem Cytochem.2008;15(12)1099-111
  4.  Christi Bird. Antibody user survey. The Scientist magazine.2012 May 1, www.the-scientist.com

 

F1000Research誌に掲載された意見記事である「siRNA knockdown validation 101: Incorporating negative controls in antibody research」を日本語訳して以下にご紹介します(PMID: 26998240)。


[論評]siRNAによるノックダウン検証入門:抗体研究におけるネガティブコントロールの導入(OPINION ARTICLE: siRNA knockdown validation 101: Incorporating negative controls in antibody research

Will Olds博士、Jason Li博士著

要約(Abstract)

ネガティブコントロールを用意して、より多くの抗体検証プロトコールを実施することは、再現性を得られない主要な要因となる非特異的な試薬を特定することにつながる。本論文は、様々な検証手法のうち、siRNAノックダウン法の概要を示すものである。一般的なプロトコール、ノックダウンのメカニズム、ノックダウン実験を評価するための諸注意を概説した。

キーワード

ノックダウン、siRNA、ネガティブコントロール、特異性、ウェスタンブロット、shRNA、トランスフェクション、ベクター

序論(Introduction)

低品質で検証試験が実施されていない抗体は、研究において再現性が得られないという問題の主要な要因であり1、毎年8億ドルにのぼる損失を出していると推定され2、過去10年の論文撤回件数は10倍に急増している3。こうした数字の裏で、研究者は新たなロットの抗体製品を使用する度に、過去に得られた結果と同様の結果が得られず不満を募らせている。我々は科学コミュニティの一員として、研究を困難にするこうした問題を排除するには、日常的に行う研究を強化し標準化するための、徹底的な抗体検証方法を新たに導入する必要がある。

抗体製品を取り扱う業界に対して、実験計画で非常に重要な役割を果たすにもかかわらず慣習的に見過ごされているネガティブコントロールを取り入れることで、より厳密な検証試験のニーズに応えることを奨励したい。通常、抗体メーカーは抗体をウェスタンブロットで検証するが、ターゲットタンパク質の発現を抑制または排除した場合において、シグナルが検出されるか否かについて定期的に検証試験を実施することはほとんどない。

siRNA(Short interfering RNA)によるノックダウン法は、メーカーによるネガティブコントロールサンプルを用いた日常的検証の実施をより現実的にする技術である。siRNAノックダウンは、ターゲットmRNAを分解して細胞内のタンパク質合成を「ノックダウン」する手法である。ターゲットタンパク質をsiRNA処理した細胞とターゲットタンパク質に特異的な抗体を組み合わせると、無処理細胞を使用した場合と比較して、ウェスタンブロットによるシグナルの有意な減少が認められる(図1)。

図1. AKTのsiRNA実験の結果。使用抗体:AKT1抗体(カタログ番号:10176-2-AP)。サンプル:siRNAコントロール細胞、HEK293コントロール細胞、AKT1 siRNA処理細胞。

非特異的抗体を特定するために提唱されている検証試験法は、siRNAノックダウン以外にも存在する4。CRISPR法およびその他の遺伝子編集技術は、ゲノムDNAから目的遺伝子をノックアウトし、コードされているタンパク質が合成されないようにする。通例、目的遺伝子がノックアウトされたサンプルにおいて、抗体が何らかのタンパク質と結合する場合、誤ったタンパク質と結合していることになる。ノックアウトサンプルは強力なネガティブコントロールサンプルとなるが、本法における懸念点の1つとしてターゲットタンパク質が細胞の生存に必須のタンパク質である場合に細胞死のリスクが生じることが挙げられる。その他の手法としては、ネガティブコントロールサンプルを使用せず、代わりにポジティブコントロールサンプルによって特異性を実証する手法が存在する。例えば、質量分析法では、抗体が結合する目的タンパク質とその他のタンパク質を区別できる特有のスペクトルを測定するが、この方法は免疫沈降で回収できるタンパク質のみに限定される。

これらすべてのアプローチは容易であるようにみえるが、その方法論は複雑である。siRNAノックダウンによる検証に関する研究をより深く理解したい場合や、自身で検証プロトコールを検討する場合は、以下の概要を活用できると考えられる。一連の手順は、長年にわたり試験を繰り返し、改良を重ねてきたプロテインテックの手法に基づいている。しかし、この方法だけが抗体検証を実施できる唯一の方法というわけではないことに留意されたい。

ベクターのデザインと設計(Design and engineer a vector)

ターゲットタンパク質の遺伝子配列を選択し、細胞にトランスフェクションするための適切なベクターを設計することは比較的容易なプロセスであり、数多くの文献やオンラインリソースが存在する(RNAi ConsortiumDharmacon(現Horizon Discovery)Ui-TeiGenelink)。当然ながら、実際にベクターを構築する際は、siRNAの前駆体であるshRNA(short hairpin RNA)を生成するためのより実践的な技術が必要となる。最終的な目的は、短いループ構造を介して末端同士がアニーリングによって結合するような転写産物(shRNA)を発現する、相補的な19~22mer(センス鎖1本、アンチセンス鎖1本)の配列を含む一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの構築である。プロテインテックでは「TTCAAGACG」をループ配列として使用している。

トランスフェクションおよび培養(Transfect and culture)

ベクターを作製し、トランスフェクション用に十分な量を確保したのであれば、ベクターを細胞に送達するための適切なトランスフェクション法を決定しなければならない。トランスフェクションが成功すると、細胞は外部から導入されたDNAを転写して上述したshRNAを産生する(図2)。その後、Dicerがループ配列を除去することで、shRNAはsiRNAにプロセシングされる。プロセシングを受けたsiRNAはRISC(RNA-induced silencing complex)に結合し、RISCは二本鎖RNAを分離させて活性化する。RISCにはsiRNAの片方のRNA鎖が残り、ターゲットmRNAと相補的に結合してターゲットmRNAを切断する。この機構により、ターゲットmRNAにコードされたタンパク質の生成が抑制される。研究者は、このRNAi実験を実施するにあたって、ウェスタンブロットに使用するための十分な量のサンプルを得るために細胞を培養すると同時に、RNAiの生物学的プロセスが完了するまでの時間を確保する必要がある。

図2. siRNAノックダウンの生物学的経路の概要

ターゲットタンパク質が細胞生存に必須のタンパク質である場合、細胞死は実験を頓挫させる主要な原因となる。幸いなことに、タンパク質合成が抑制されても、完全に消失していなければ、ほとんどの細胞は正常に増殖することが可能である。必須タンパク質をターゲットとする場合は、ノックダウン法の方が発現抑制の微調整が可能であり、遺伝子編集によってターゲットの転写を全て消失させるノックアウト法による検証試験よりも、好ましい代替法と考えられる。

試験および評価(Test and evaluate)

ウェスタンブロットを実施した際、shRNA発現ベクターを導入しなかった細胞では強いシグナルが認められ、shRNA発現ベクターのトランスフェクションを実施した細胞では弱いシグナルが認められた場合、それは抗体がターゲット特異的でありノックダウン実験が成功したことを意味している。何らかの非特異的バンドが認められる場合は、抗体自体が非特異的であることを示している可能性があるため、抗体の品質に疑念が生じる。また、観察されるバンドはウェスタンブロットメンブレンのすべてのレーンにおいて整合しているはずである。そうでない場合は、何らかの原因によって実験が失敗している可能性があり、プロトコールおよび実験計画を再検討する必要がある。

抗体検証プロトコールのネガティブコントロールの重要性を過小評価すべきではないと考える一方、このような検証方法は広く一般的に利用可能な方法ではなく、個別のラボで実施するには時間とリソースを消費する手法であることも十分に理解できる。その際、次善の選択肢としては、ポジティブコントロールのみを採用して綿密にウェスタンブロットによる検証を実施する手法が挙げられる。ただし、対象となる抗体製品に対して十分な数のデータが揃っていること、つまり使用した抗体のメーカー名や品番が明記されている研究論文が発表されていることが条件となる。我々は、抗体検証における新たなスタンダードとして、siRNAノックダウン等のネガティブコントロールの展開と利用を奨励したい。そうすることで、再現性の高い研究成果をもたらし、科学の発展を加速させるはずである。

参考文献

遺伝子組換え技術によるノックダウン(KD:Knockdown)とノックアウト(KO:Knockout)は、抗体の特異性を評価する補完的な手法です。実験系の構築や試薬の手配をする前に、どちらの手法がご自身の研究に最も適しているか検討してください。それぞれの手法には以下に示す長所と制約が存在します。

方法 

適しているターゲット 

制約と留意点

ノックダウン
(Knockdown)
 

  • 必須遺伝子 

  • プレデザインのsiRNA/RNAi試薬を適用可能な遺伝子

  • ノックダウン効率が問題になる場合があります。 

  • オフターゲット効果を示す可能性があります。 

  • ウェスタンブロットでの残留シグナルは依然として非特異的結合を反映している可能性があります。

  • 非常に高発現なタンパク質の場合、ノックダウン効果が認められず検出シグナルが変化しない可能性があります。

  • タンパク質の分解代謝速度(ターンオーバー)が遅いと、ノックダウン効果を確認することが難しい場合があります。

  • 通常、ノックダウンの効果は一過性です。

 

ノックアウト
(Knockout)
 

  • 高発現遺伝子 

  • 正確性の高い結果が求められる場合

  • CRISPRやTALEN等を使用できない遺伝子もあります。

  • 必須遺伝子には適用できません。