VHH抗体(別名:Nanobody®)に蛍光色素を標識する方法

VHH抗体は、Nanobody®(ナノボディ)としても知られるラクダ科動物由来の抗原結合ドメインです。VHH抗体に蛍光色素を標識することで、免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)や超解像顕微鏡(SRM:Super Resolution Microscope)を用いた蛍光顕微鏡アプリケーションに使用できる汎用性の高いツールを作製することができます。


VHH抗体は、Nanobody®(ナノボディ)としても知られるラクダ科動物由来の抗原結合ドメインです。VHH抗体に蛍光色素を標識することで、免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)や超解像顕微鏡(SRM:Super Resolution Microscope)を用いた蛍光顕微鏡アプリケーションに使用できる汎用性の高いツールを作製することができます。VHH抗体(別名:Nanobody®)は分子量の小さい小型の抗体であることから、細胞内や組織の混雑環境下でも浸透性に優れ、エピトープと標識物質間の距離が近いため、高い解像度の画像を撮影することができます。また、VHH抗体(別名:Nanobody®)はエピトープに対して高い親和性を示すため、ELISAのような抗体アプリケーションに用いるプローブとしても適しています。

クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)は、アプリケーションごとに最適化され、様々な蛍光色素(Alexa Fluor®、ATTO等)を標識したVHH抗体(別名:Nanobody®)を提供しています。

Nano-Boosterは、緑色蛍光タンパク質(GFP)や赤色蛍光タンパク質(RFP)と結合し、これらの蛍光タンパク質のシグナルを増強(「ブースト」)します。Nano-Labelは、Spot-Tag®、ヒストン、ビメンチンのような非蛍光ペプチドや内在性タンパク質を認識・染色します。Nano-Secondary®は、マウス・ウサギ・ヒト由来の一次抗体に対し、種特異的かつサブクラス特異的に結合する二次抗体です。プロテインテックは、可能な限り様々な蛍光観察用の製品を提供できるよう努めていますが、実験内容によってはプロテインテックのラインアップにない蛍光色素が標識されたVHH抗体(別名:Nanobody®)を使用したい場合があるかもしれません。本稿では、このようなケースをサポートするべく、任意のNHS基またはマレイミド(maleimide)基誘導体色素を利用して、VHH抗体(別名:Nanobody®)を蛍光標識する方法を紹介します。

プロテインテックの関連製品

Nano-Booster & Nano-Label(ナノブースター&ナノラベル)
Nano-Secondary®(ナノセカンダリー)

標識手法の比較

未標識抗体に任意の蛍光色素を結合する場合、(ⅰ)各色素標識手法の利用可否はVHH抗体(別名:Nanobody®)を構成するアミノ酸配列に依存すること、(ⅱ)各色素標識手法は異なる原理に基づくため、標識産物の特性に影響を与える可能性があることを考慮します。

プロテインテックの関連製品:未標識VHH抗体

遊離システイン残基(スルフヒドリル基-SHを含むアミノ酸)が存在するVHH抗体(別名:Nanobody®)には、マレイミド(maleimide)誘導体色素を標識することができます。なお、ジスルフィド結合を形成しているシステイン残基は、マレイミド誘導体色素の標識に利用することはできません。遊離システイン残基を持たないVHH抗体(別名:Nanobody®)の場合は、マレイミド誘導体色素の代わりにNHS誘導体色素を用いて標識します。プロテインテックのVHH抗体(別名:Nanobody®)の中にはソルターゼ認識モチーフ配列を有するものがあり、その場合は、ソルターゼによる酵素反応を利用してペプチド誘導体色素を酵素的に標識することが可能です。

  RFP-BoosterおよびGFP-Boosterを使用した、PCNA-mRFPおよびTom70-eGFP一過性発現Hela細胞の免疫蛍光染色  
  PCNA-mRFPおよびTom70-eGFPを一過性トランスフェクションにより発現させたHela細胞の免疫蛍光染色。赤:RFP-Booster Alexa Fluor® 568(カタログ番号:rb2AF568)。緑:GFP-Booster Alexa Fluor® 488(カタログ番号:gb2AF488)。撮影:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門、スケールバー:10µm  

 

マレイミド誘導体色素は一定の標識度(DOL:degree of labeling)で部位特異的にシステイン残基へ標識されるため、調製した蛍光色素標識VHH抗体(別名:Nanobody®)は定量アッセイに適しています。標識度は標識可能なシステイン残基の数に依存し、クロモテックのVHH抗体(別名:Nanobody®)には通常1~2残基のシステインが存在します。

リジン残基(アミノ基-NH2を含むアミノ酸)への蛍光色素標識は、若干ランダムに標識される傾向にあり、標識度は使用する色素量(モル比換算)に依存します。色素標識VHH抗体(別名:Nanobody®)の安定性や水溶性を維持するには、DOLの値が1~2になるように、標識反応時の抗体や色素の濃度を調整することを推奨します。通常、この標識度は、定量アッセイを実施するうえで必要となる値です。プロテインテックの販売するVHH抗体(別名:Nanobody®)の中でアミノ酸配列中に遊離システイン残基が存在しない製品は、TAPS(Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)バッファー中で保存されているため、すぐに実験に使用できます。しかし添加されている防腐剤については、事前に除去することを推奨します。

最後に、ソルターゼによる酵素的標識法の場合、VHH抗体(別名:Nanobody®)のC末端あるいはN末端、標識色素(蛍光標識ペプチド)にソルターゼが認識するペプチド配列を挿入する必要があります。酵素的標識法は定常状態で進行する反応です。効率的に色素を標識するには、反応が反応産物の方向へ進むように実験条件を検討すると良いでしょう。