ヒントとコツ | ウェスタンブロット実験7つのヒント

ウェスタンブロット実験の条件検討で考慮すべき7つのポイントを解説します。

Deborah Grainger

ウェスタンブロットは、いわゆる「精密科学(exact science)」と言える程の厳密で定量的な測定法ではないため、すぐに論文に掲載できるような完璧な結果を常に得られるわけではありません。しかし、実験条件を改善し、良好な結果を得るためにできる手段があります。実験条件の微調整を行うプロセスは「最適化(optimization)」と呼ばれ、ウェスタンブロットのプロトコール中のいくつかの操作手順に適用されます。

 

ウェスタンブロットの実験風景

1. SDS-PAGE

ウェスタンブロット実験は、メンブレン上での作業を開始するよりも前から始まっています。サンプル調製にまで遡ることができますが、本稿では「分子量に基づくサンプル分離」の最適化から解説を始めます。最終的に得られる実験結果は、実験の出発材料に依存します。すなわち、良好なSDS-PAGEゲルは、良好な結果を示すメンブレンの取得につながります。ひいては、科学的疑問の解決へと導くことでしょう。泳動用ゲルを自作する場合は、気泡がなく、均一な組成のゲルを再現性良く作製できるよう細心の注意を払います。また目的タンパク質の分離に適したアクリルアミド濃度のゲルを検討してください(プロテインテックのウェスタンブロット完全ガイド[PDF]の「GEL RECIPES」項をご参照ください)。泳動速度を速める目的での高電圧下の電気泳動の実施は避けましょう。空のウェルには泳動サンプルと同量の1xサンプルバッファーをロードして電気泳動を行うことで、染色時のバンドの「スマイリング」現象を回避します。

そして何よりも、常に一定量のタンパク質をロードすることが重要です。まずはタンパク質定量アッセイで総タンパク質濃度を測定します。ブロット後、「ストリーク状のバンド(バンドが縦すじ/横すじ状に歪みを生じるストリーキング)」を生じる場合は、サンプル濃度を調製してロードするタンパク質量を少なくします。プロテインテックの製造および検証ラボでは、1レーンあたり30μgのタンパク質をロードすることで、通常はストリーキングが認められない分離の良好なバンドが得られています。

2. メンブレン

ウェスタンブロットの実験結果は、使用するメンブレンの種類によって大きな違いを生じる場合があります。主なメンブレンにはPVDFとニトロセルロースの2種類がありますが、現在の市販品の中には蛍光検出系や低分子量タンパク質に最適化された特定の用途に特化したメンブレン製品が存在します。

PVDFは、物理的強度が高く、酸やアルカリ等に対する薬品耐性を示すといった堅牢な性質を有することから、ウェスタンブロットによく用いられています(つまり、破れにくく薬品処理に耐え得ることからストリッピングやリプロービングに適しています)。また、PVDFの面積あたりのタンパク質保持能は、ニトロセルロースよりも高いという特性を有します。

ニトロセルロースメンブレンは、ブロッキングが容易で、一般的にシグナルノイズ比(S/N比)が高い傾向を示します。しかし、物理的強度が弱く、ストリッピングやリプロービングを実施したい場合の使用は推奨されません。

それぞれについて、使用するメンブレンの孔径(ポアサイズ)が目的タンパク質の分子量に適しているか確認しましょう。

ラボで慣習的に使用されているメンブレンとは異なるタイプの製品も積極的に試してみることをおすすめします。普段と異なる条件を試してみることが、最適なウェスタンブロットの結果を得るための重要なヒントとなるかもしれません。

3. 抗体濃度

十分に市販品を調査した上で使用する抗体を決定したら、次のステップは最適な抗体濃度の検討です。

特定の結合定数において、遊離している抗原および抗体濃度に対する「抗原‐抗体複合体濃度の割合(結合度)」は、溶液中の抗原と抗体の初濃度に影響を受けます(また、結合定数の変動要因として、温度やpH等の条件が挙げられます)。ウェスタンブロットでは抗原タンパク質はメンブレンに固定化された状態にあるため、転写後の抗原の量は変数としてではなく、一定の値とみなされます。そのため、良好な結果を得るためには多くの場合、抗体濃度を調整する必要があります。この最適化作業を計画的に行えば、実験に最適な抗体濃度を求めることができるでしょう(抗体以外のパラメーターを一定の条件に固定し、濃度の異なる抗体希釈液で試験します)。

このステップは「抗体価の測定(antibody titration)」と呼ばれ、新たな抗体を使用する際や実験条件を設定する際は常に実施することをおすすめします。また新しく製造されたロットのポリクローナル抗体が以前のロットの抗体と同じような機能を発揮しない場合もこのステップを実施します。

抗体価の測定方法

多くの抗体メーカーは、データシートに推奨希釈倍率を掲載しており、通常は記載された希釈倍率がおおよその目安として実験に役立ちます。しかし、データシートに記載された推奨希釈倍率でメーカーが検討した時のサンプルや実験条件が、ご自身の実験条件とは大きく異なる場合もあるため、いずれにしても抗体価の測定をおすすめします。製品データシートで希釈倍率1:1000が推奨されている場合は、希釈倍率を1:250、1:500、1:1000、1:2000、1:4000となるよう段階希釈して検討を実施します。

一般的には1回の検討で、推奨希釈倍率の2倍の濃度の溶液と2分の1の濃度の溶液を調製すれば(必要に応じて、推奨希釈倍率の4倍の濃度の溶液と4分の1の濃度の溶液を追加できます)、適切な段階希釈実験を行えます。推奨希釈倍率の情報がない場合は、抗体を1µg/mlとなるよう希釈した溶液を起点として条件検討を実施します(通常、抗体原液の濃度はデータシート等に記載されています)。実験に供するサンプルの種類、インキュベーション時間、洗浄時間、温度等のその他すべての実験条件は必ず揃えるよう留意します。

二次抗体に関する注意事項

特に化学発光により目的タンパク質を検出する場合、二次抗体の濃度を変えて検討を実施する必要があるかもしれません。HRP標識二次抗体の濃度は、バンドの外観に直接的に影響を及ぼします。HRPの存在量が少ないと化学発光のシグナルが弱くなり、バンドが薄くなる場合やバンド自体が消失してしまう場合があります。一方、二次抗体の濃度が高すぎると「バーンアウト(burnt-out)バンド」(中心部が白ぬけしたバンド)が生じるおそれがあります。バーンアウト現象は、バンド中心部の基質の急速な枯渇が原因で生じます。また、化学発光試薬のインキュベーション時間を変更することでも、得られる結果を改善できます(参考:6項「検出」)。

4. ブロッキング条件

現在、様々なブロッキングバッファーを利用することができますが、すべてのバッファーがあらゆる条件で機能するわけではありません。各実験で使用する抗体‐抗原の組み合わせごとに、数種類のブロッキングバッファーを試してみることをおすすめします。乳(ミルク)を原材料とするスキムミルク等のブロッキングバッファーには、内在性ビオチン、糖タンパク質、酵素等が含まれており、シグナルに悪影響を与える場合があることに留意してください。また、スキムミルク系のバッファーには、カゼイン等のリン酸化タンパク質が含まれており、リン酸化タンパク質を検出する場合にバックグラウンドが高くなるおそれがあることが一般的に言及されます。さらに、活性を有するホスファターゼが含まれており、リン酸化タンパク質を脱リン酸させて検出を阻害する可能性もあります。スキムミルクで上手くいかないケースでは、ウシ血清アルブミン(BSA)等のブロッキング剤を代わりに試してみましょう。

5. 洗浄

高いバックグラウンドシグナルが生じた際は、ほとんどの場合、次いで洗浄ステップの条件の変更を検討することで改善できます。通常、Tween-20の濃度を0.05%から0.1%に増やします。また、洗浄時間を延長する、洗浄に用いる液量を増やす、バッファーの交換回数を増やす、より作用の強い界面活性剤を使用する(例:Tween-20の代わりにSDSを使用する)等の、いずれかの対策を実施して洗浄強度を変更することも可能です。ただし、過剰に洗浄することは避けてください。

6. 検出

ウェスタンブロットで良好なシグナルを得るために、検出の最適化は不可欠です。化学発光試薬は数多く存在し、蛍光検出法等の化学発光法の代替法もあります。そのため、ラボの標準的な方法では検出できないとしても、多くの選択肢があります。例えば、より感度の高い試薬や、より長時間持続するシグナルを生成する試薬を選択することができます。後者を選択すると、バンドの再現性が著しく向上します。

より簡便な方法として、フィルムの露光時間を変更して化学発光の検出を最適化することも可能です。この方法は迅速かつ容易なので、おそらく最も頻繁に実行されている最適化ステップです。常に、検討する露光時間のポイントを揃えて実施してください(ただし、約10~15分後には、すべてのHRP基質が消費されてしまうことに留意してください)。選択するフィルムによって結果は大きく異なります。プロテインテックラボの経験では、従来のオートラジオグラフィーフィルムを使用するよりも、化学発光検出専用のフィルムが最適であることを確認しています。

7. 不要なステップは省く

実施するステップが少なければ、当然実験で失敗するポイントと最適化するステップが少なくなります。ウェスタンブロット操作の省略は、技術的に進歩した蛍光イメージング手法の採用やHRP標識試薬の変更によって実現できます。

蛍光イメージングシステムは、すべてのラボで個別に導入されていないかもしれませんが、所属する研究機関の中核施設または中央施設にはあるかもしれません。蛍光系検出システムの利点は、複数の抗体を同時に検出できることであり、メンブレンをストリッピングしてリプロービングする必要がないという点です(ただし、普段より蛍光イメージング装置を使用せず、主に化学発光検出を選択している場合は、最初から複数の一次抗体を同時にインキュベーションして蛍光ウェスタンブロット検出を実施することはおすすめできません。最終的に蛍光色素で多重検出を行う予定であっても、個別に検出条件を検討して、まずはそれぞれのタンパク質や抗体について十分に知見を得るようにしてください)。

あるいは、HRP標識一次抗体を使用することで、二次抗体による一次抗体の検出ステップを完全に省略して、ウェスタンブロットのプロトコールを簡略化することが可能です。HRP標識一次抗体の市販品の有無や目的タンパク質の発現量によっては、すべてのタンパク質で本手法を実施できるとは限りませんが、一般的なローディングコントロール用抗体や、タンパク質タグに対するHRP標識抗体を利用できると、多くの時間の節約になるため、検討する価値は十分にあります。この機会にプロテインテックのHRP標識抗体のラインアップをご覧ください。

まとめ

ウェスタンブロット最適化の主な目的は、特異的バンドのS/N比を高め、非特異的バンドが生じた場合はそれらのシグナルを減少させることです。本稿で述べた上記のすべての要素を最適化しようとすれば相当の時間を要します。しかし、1点または2点を変更しただけでも得られる結果が改善され、長期的に見れば時間を節約できます。最適化は時間と労力をかける価値のある作業であり、論文に掲載できる品質のウェスタンブロットデータを取得するためには、必須の戦略であると考えられます。

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