ペプチドタグ「Spot-Tag®」とVHH抗体(別名:Nanobody®)による捕捉/検出システム

新規のエピトープタグである「Spot-Tag®(Spotタグ)」を融合したタンパク質の捕捉/検出アプリケーションに用いられる抗Spot-Tag® VHH抗体(別名:Nanobody®)を紹介します。

Spot_NanobodyにSpot-tagペプチドが結合した画像

抗Spot-Tag® VHH抗体(緑)は、Spot-Tag®(不活性な12アミノ酸残基(配列:PDRVRAVSHWSS)からなるペプチドタグ)と結合します。Spot-Tag®ペプチドは、抗Spot-Tag® VHH抗体と結合すると抗体表面に埋没し、抗Spot-Tag® VHH抗体のβシートを拡張したような構造をとります。本システムの特異性は、抗Spot-Tag® VHH抗体側鎖とSpot-Tag®ペプチドの厳密な相互作用に基づいています。さらにSpot-Tag®ペプチドは抗Spot-Tag® VHH抗体の2残基のアミノ酸側鎖によって抗体に固定(クランプ)されます。抗Spot-Tag® VHH抗体とSpot-Tag®ペプチドが高い親和性で結合する理由は、この結合メカニズムによって説明することができます。

目次

はじめに

Spot-tag®の由来

極めてバックグラウンドの低い捕捉/検出システム

アプリケーション概要

無料サンプルについて

 

 

はじめに:Spot-Tag®捕捉/検出システムに用いるSpot-Tag®ペプチド&抗Spot-Tag® VHH抗体について

クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部に加わりました)の革新的なSpot-Tag®システムは、新規のペプチドタグ/エピトープタグであるSpot-Tag®を特異的に認識するVHH抗体(別名:Nanobody®、単一ドメイン抗体)を利用したユニバーサルな捕捉&検出システムです。Spot-Tag®捕捉/検出システムは、Spot-Tag®と抗Spot-Tag® VHH抗体の両方を使用することで最大限に活用することができます。Spot-Tag®は不活性な12アミノ酸残基(配列:PDRVRAVSHWSS)からなるペプチドタグであり、抗Spot-Tag® VHH抗体はSpot-Tag®に対して高い特異性を示します。抗Spot-Tag® VHH抗体は、従来型の抗体よりも小型の抗体であり、Spot-Tag®融合タンパク質に対して高い特異性で結合するため、バックグラウンドの低い結果を得ることができます。

抗Spot-Tag® VHH抗体は、Nano-Trap®やNano-Label®シリーズの製品群と同様に、免疫沈降用ビーズや蛍光色素に結合済みの製品として提供されます。さらに、未標識抗Spot-Tag® VHH抗体としても販売しています。

  • 免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)には、抗Spot-Tag® VHH抗体が免疫沈降用ビーズ担体と結合した「Spot-Trap®」製品をご利用いただけます。
  • タンパク質精製には、抗Spot-Tag® VHH抗体がタンパク質精製用アガロースビーズに結合した「Spot-Cap®」をご利用いただけます。
  • 免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)およびウェスタンブロット(WB:Western blot)には、抗Spot-Tag® VHH抗体に蛍光色素が標識された「Spot-Label®」製品をご利用いただけます。
  • NHSエステル反応による任意の基材(プレート表面等)への固定化や各種物質(蛍光色素、ビオチン、ビーズ類)の標識には「未標識抗Spot-Tag® VHH抗体」をご利用いただけます。

プロテインテックの関連製品
Nano-Trap®
Nano-Label®

Spot-Tag®の由来

Spot-Tag®は、ヒトβカテニンタンパク質の非構造(決まった構造をとらない)N末端の直鎖状エピトープを基にして開発されたペプチドタグです(1、2)。Spot-Tag®の配列は、ヒトβカテニン本来の配列から改変し、抗体と特異的に結合できるよう最適化されています。抗Spot-Tag® VHH抗体は、Spot-Tag®ペプチドに対して解離定数=0.7 nM と高い親和性で結合します。抗Spot-Tag® VHH抗体は、Spot-Tag®融合タンパク質をヒト以外の哺乳類細胞や原核細胞/真核細胞宿主で発現させる場合だけでなく、ヒト細胞で発現させる場合にも利用できます。例えば、CRISPR/Casシステムのようなゲノム編集技術を用いてヒト細胞で目的タンパク質にSpot-Tag®を挿入(ノックイン)したサンプルを用いる場合であっても、抗Spot-Tag® VHH抗体は、βカテニンよりも優先的にSpot-Tag®融合タンパク質と高い親和性で特異的に結合します。

アプリケーションノート:Spot-Trap and Spot-Label for CRISPR’ed Spot-Tag[PDF]

 


極めてバックグラウンドの低い捕捉/検出システム

Spot-Tag®および抗Spot-Tag® VHH抗体は非常にバックグラウンドの低い捕捉/検出システムです

免疫沈降(IP)実験や免疫蛍光染色(IF)実験では、βカテニン由来のバックグラウンド、すなわちβカテニンと抗Spot-Tag® VHH抗体の結合現象は無視できるほどに少ないことを示しています。しかし、質量分析(MS:Mass Spectrometry)等の非常に高感度な手法の場合、抗体と結合したβカテニンや、αカテニン等のβカテニンと相互作用する物質が検出される場合があります。βカテニンや、αカテニン等は既知のコンタミネーションであるため、データ解析やアライメントの際に容易に除外できます。さらに、プロテインテックのデータは、Spot-Trap®はβカテニンのエピトープが脱リン酸化している状態の時だけしかβカテニンと結合せず、バックグラウンドが低く抑えられる一因であることを示しています。

Spot-Label®は非常に低いバックグラウンドの蛍光検出試薬です

免疫蛍光染色アプリケーションについて、Virantらは2018年にNature Communications誌に掲載した論文で、抗Spot-Tag® VHH抗体と内因性βカテニンとの結合が免疫蛍光染色に及ぼす影響はごくわずかであることを入念に測定しています(3)。抗Spot-Tag® VHH抗体は、「BC2-Nanobody(BC2-Nb)」という名称で論文中に登場しています。また、プロテインテックが撮影したイメージングデータには、内在性βカテニン由来のバックグラウンドが認められませんでした。

Spot-Labelを使用したSpot-tag挿入Actin-Chromobody発現細胞の超解像イメージング
STED(Stimulated Emission Depletion)超解像イメージング:Spot-Tag®挿入Actin-Chromobody®(アクチン‐クロモボディ®)をトランスフェクションし、二価のSpot-Label Atto594(希釈倍率1:1000)を使用した免疫蛍光染色
Gated STEDイメージング画像は、ライカTCS SP8 STED 3X顕微鏡のパルス白色光レーザーによる590nmの励起光線および775nmのDepletion Laser照射によって取得しました。対物レンズ:100x油浸レンズ(OIL STED WHITE)、開口数1.4。Pixel size:21 x 21 nm、z-Stack時のz-Step size:0.16μm。イメージング画像はHuygens Professional(Scientific Volume Imaging(SVI)社)を用いてデコンボリューションしました。撮影:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門。

 

Spot-Trap®は非常に低いバックグラウンドのタグ捕捉試薬です

Spot-Trap®の免疫沈降の性能を評価するために、他のサプライヤーが提供するタグシステム製品と共に比較試験が実施されています。タグ融合タンパク質を発現していないHEK293細胞のライセートを使用し、各製品の結合容量が等しくなるよう調製後、各製品のプロトコールに従って実験操作を実施しました。得られた結果の比較により、Spot-Trap®はすべての試験製品の中で最もバックグラウンドが低いことが示されました。

様々なアフィニティ担体を使用した免疫沈降サンプルのSDS-PAGE画像。Spot-Trapを使用したサンプルのバッググラウンドは非常に低い。

各種アフィニティ担体を用いた免疫沈降(IP)におけるバックグラウンドの比較:Spot-Trap®および市販されているアフィニティ樹脂のSDS-PAGE。タグ融合タンパク質を発現していないHEK293細胞のライセートを使用し、各製品の結合容量が等しくなるよう調製後、各製品のプロトコールに従って実験操作を実施しました。
M:マーカー、1:GST 抗体結合ビーズ、2:Myc 抗体(9E10)結合ビーズ(A社)、3:Myc 抗体(9E10)結合ビーズ(B社)、4:DYKDDDDK(Flag®)タグ抗体結合ビーズ、5:ストレプトアビジン結合磁気ビーズ、6:Spot-Trap® Agarose、7:Spot-Trap® Magnetic Agarose、8:Spot-Trap® Magnetic Particles M-270。レーン1~5(青枠)には細胞由来タンパク質との非特異的結合が認められます。一方、Spot-Trap®シリーズ(レーン6~8、緑枠)には非特異的結合が認められずバックグラウンドは著しく低くなっています。このことから、Spot-Trap® は免疫沈降による単一バンドの目的タンパク質精製を実現できる、優れたアフィニティ樹脂担体であるといえます。

 

アプリケーション概要

タンパク質精製

Spot-Tag®ペプチド融合タンパク質は、「Spot-Cap®」を使用して精製することができます。Spot-Cap®は、抗Spot-Tag® VHH抗体をアガロースビーズに共有結合した製品です。ビーズに結合したSpot-Tag®ペプチド融合タンパク質は、pHが酸性条件のバッファーを使用するか、より穏やかな条件であるフリーの「Spot-Tag®ペプチド」を使用した競合溶出法によって溶出します。抗Spot-Tag® VHH抗体の高い安定性は、界面活性剤、カオトロピック剤、塩濃度の高いバッファー、極端なpHのバッファーでも使用可能であり、頑健なパフォーマンスを発揮します。さらに、Spot-Cap®は再生して繰り返し使用することが可能です。

  • 厳しい洗浄条件で使用可能です。
  • ネイティブ型のタンパク質&変性タンパク質の溶出に対応します。
  • 高い親和性を発揮します。


CRISPR/Cas

Spot-Tag®システムは、プラスミドのトランスフェクション等による過剰発現タンパク質の研究時に有用なツールです。さらにCRISPR/Cas9の技術を使用してSpot-Tag®ペプチドのコード配列を目的タンパク質の遺伝子配列に挿入すると、内在性発現レベルで目的タンパク質の挙動に関する研究を実施することができます。「Spot-Trap®」と「Spot-Label®」の両方を使用することで、対象とする細胞株が発現している内在性タンパク質にCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によってSpot-Tag®を挿入(ノックイン)後、免疫沈降、ウェスタンブロットの他、免疫蛍光染色等のアプリケーションに使用することができます。

 

免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)

Spot-Tag®融合タンパク質は、落射蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡等による様々な顕微鏡撮影技法を用いて、免疫蛍光染色によって検出することができます。プロテインテックの「Spot-Label®」は、複数の蛍光色素標識体から柔軟に選択することができます。Spot-Label®は、Spot-Tag®を検出するために超解像顕微鏡に用いられた最初のVHH抗体(別名:Nanobody®)です。VHH抗体(別名:Nanobody®)はサイズが小さいため、エピトープ‐蛍光色素間の距離が短く、結合誤差を最小限に抑え、良好な解像度の画像を撮影できます。さらに、小型の抗体であることから組織への浸透性に優れています。

  • 高解像度の画像を撮影可能です。
  • 優れたエピトープへのアクセス性&組織浸透性を実現します。
  • 非常に小型のプローブです。


免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)

Spot-Tag®融合タンパク質は「Spot-Trap®」を用いた免疫沈降(IP)によって単離することができます。Spot-Tag®は、目的タンパク質のN末端やC末端に挿入することが可能です。また、立体構造の制約が少ないループ構造等の内部領域にも挿入できます。Spot-Trap®は、アガロースビーズ・磁性アガロースビーズ・磁気ビーズ(Magnetic Particles M-270)の3種類のフォーマットで販売しており、非特異的な結合によるバックグラウンドが著しく低いことを特徴としています。

  • 従来型抗体を使用した場合に認められる免疫沈降用抗体由来の重鎖および軽鎖のコンタミネーションは認められません。
  • 厳しい洗浄条件で使用可能です。
  • 高い親和性を発揮します。


共免疫沈降(Co-IP)質量分析(Co-IP/Mass spectrometry)

共免疫沈降にSpot-Trap®を使用し、プルダウンサンプルを質量分析にかけることで、インタラクトームに関する研究を実施することができます。免疫沈降でプルダウンしたタンパク質を溶出処理することなく、目的タンパク質が結合したビーズを直接トリプシン処理することが可能です(トリプシン処理:タンパク質サンプルにトリプシンを添加してタンパク質を消化分解する処理)。抗Spot-Tag® VHH抗体のサイズは小型であるため、on-beadトリプシン処理を実施してもサンプルにコンタミネーションするのはVHH抗体(Nanobody®)由来の4~5種類の既知配列ペプチドだけです。


ウェスタンブロット(WB:Western blot)

プロテインテックのマウスモノクローナル抗体ChromoTek Spot-tag® antibody(28A5)は、ウェスタンブロット(WB)でSpot-Tag®融合タンパク質を検出する場合に使用することができます。Spot-Tag®抗体(28A5)は、二次抗体ChromoTek Nano-Secondary® alpaca anti-mouse IgG1, recombinant VHH, Alexa Fluor® 488 [CTK0103, CTK0104]で検出可能です。


Spot-Tag®融合タンパク質の発現

Spot-Tag®融合タンパク質を構築する場合は、「Spot-Tag® vector」を使用することができます。プロテインテックでは複数のベクターを提供しており、Spot-Tag®の挿入位置や実験対象に応じてベクターを選択することが可能です。専用のベクターを使用する代わりに、Spot-Tag®のコード配列をPCR増幅し、容易にクローニングすることもできます。

無料サンプルについて

プロテインテックでは、Spot-Trap®(Nano-Trap)のサンプルを無償で提供しています。

無料サンプルのご依頼は(株)プロテインテック・ジャパンまで

(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
最寄りのコスモ・バイオ株式会社 代理店をご指定の上、ご依頼ください。)

 

参考文献

  1. B Traenkle, U Rothbauer, et al. Monitoring interactions and dynamics of endogenous beta-catenin with intracellular nanobodies in living cells. Mol Cell Proteomics. 2015 Mar;14(3):707-23.
  2. M B Braun, U Rothbauer, et al. Peptides in headlock--a novel high-affinity and versatile peptide-binding nanobody for proteomics and microscopy. Sci Rep. 2016 Jan 21;6:19211.
  3. D Virant, U Rothbauer, et al. A peptide tag-specific nanobody enables high-quality labeling for dSTORM imaging. Nat Commun. 2018 Mar 2;9(1):930.