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博士課程の最終審査に向けた準備と対策:口頭審査を成功へ導く10のヒント

Tiago Marcos博士著(Edinburgh大学)

ゲスト寄稿者であるTiago Marcos博士は、先月Edinburgh大学の博士論文審査を無事に通過し、博士号を取得しました。本稿では大事な審査に備える10の秘訣を紹介します。
Tiago Marcos博士近影

Viva(学位論文審査の口頭試問)の合格が確実に保証される、万人に共通の秘訣は存在しません。何故なら、口頭試問はその性質上、様々なタイプの審査員によって各人の研究に特化した内容の審査が行われるためです。具体的な技術論や実験手法について追及してくる審査員もいる一方で、提出した論文導入部のわずか1段落の完成度や問題点について1時間以上議論する審査員もいます。何年もの歳月を費やして取り組んだこの研究すべてを最も熟知しているのは自分自身です。これまでの努力と研究成果を審査員に披露する絶好の機会が訪れたのだと思って挑みましょう。

口頭試問対策:10のポイント

 

1. スケジュール調整

可能であれば、論文提出日と近い日程で口頭試問が行われるよう日程を調整しましょう。これは論文提出後に達成感と虚脱感で何も手がつかなくなるというアンチクライマックスを迎えないための対策で、何よりも論文執筆作業を通じて培った関連文献の知識や実験技術・論文の詳細に関する記憶が鮮明なうちに試験に挑めるというメリットがあります。とはいえ、万人がこの対策をとれるわけではありません。次に挙げる対策もぜひ参考にしてください。

2. 論文を最初から最後まで精読する

学位論文提出から口頭試問までの間隔が開いてしまう場合は、論文を熟読する時間を確保して記載内容を再確認しましょう。審査員からの質問が想定される箇所を確認してマーカー等でハイライトし、統計解析やデータ処理の実施背景や採用した根拠を改めて整理しておきましょう。

3. 経験者へのヒアリング

口頭試問の雰囲気や全体像を事前に把握しておくことで、本番当日の緊張や精神的ショックをある程度抑えることができるでしょう。これから挑む口頭試問の担当審査員から審査を受けたことがある先輩や同輩に話を聞き、審査員が重視する点や質問の傾向といった情報を入手しておきましょう。偏った評価をすることで知られている審査員の場合(例:論文集約型の学位論文に否定的な場合等)、担当の変更を申請することが認められています。ただし、口頭試問の展開は各人によって異なるということを理解しておきましょう。誰かの体験談が散々なものだったとしても、あなた自身も同じ経験をするとは限りません。

4. 提出論文を短時間で説明できる要約を準備しておく

要約は2種類の形式で用意しておくのが理想的です。30秒程度で全体像を伝えられる簡易版と、全体の内容と各章の目的を詳しく説明する5分程度の詳細版を作成しておくと良いでしょう。既存文献や当該分野の知見において、得られたデータがどのように位置づけられるかをまとめた、2分程度で解説できる要約も用意しておくと便利です。そして友人や家族の前で練習を積んでおけば、試験当日に極度の緊張に襲われた場合でも「自分ならできる」と自信を持てるはずです。

5. 正直は最善の策

質問に対する回答がわからない場合は、正直にそう伝えても構いません。例えば、「この論文・アイデア・技術についてはまだ把握できておりません。私の理解が不足しており恐縮ですが、もう少し詳しくご教示いただけますでしょうか?」と伝えてみましょう。良心的な審査員であれば、あなたが既に理解している知識を巧みに引き出して正解へと導いてくれるはずです。博士候補者を脱落させるために口頭試問が設けられているわけではありません。罠に嵌められることはないはずです。

6. 最新情報を網羅できていなくても心配はありません

ほぼすべての研究分野で毎週のように発表される文献やプレプリント、新技術の動向を全部追い続けるのは極めて困難といえます。私がシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)の扱いに慣れ始めた矢先に、今度はRNAパッチシーケンス(RNA Patch-seq)が脚光を浴びるようになりました(RNA Patch-seqはパッチクランプ法で電気生理学的情報を取得した後にscRNA-seqを行う技術です)。自分が引用した手技手法や参考文献等の知見はすべて理解しておくべきですが、焦ってパニックを起こしてまで、あらゆる実験手技や関連性が高いプレプリントをすべて暗記する必要はありません。

7. 口頭試問前日/前夜の詰め込み勉強は控えましょう

エディンバラなら市の中心街でスコッチステーキパイを食べながらアイアン・ブルー(スコットランドの国民的飲料)を飲んだり、リスボンなら美味しいと評判のヴィーガンドーナツを食べてみたり、サンタンデールならスキューバダイビングを体験したりして過ごしましょう。何よりも、試験前日の徹夜は禁物です。しっかりと睡眠時間を確保しましょう。

8. 祝賀計画

可能であれば、親しい友人に依頼して特別に店を予約してもらい、これまでの苦労を労いながら成功を祝いましょう。このような計画を準備しておけば、不安を抱いたときの大きな励みにもなるでしょう。口頭試問が終わってから味わったメキシコ料理は最高のご褒美でした。また、長く困難な挑戦の締めくくりに、学外審査員とジョークを交わしたことは素晴らしい思い出になりました。

9. 早い段階から整理・管理体制を整えておく

博士課程の研究を開始するタイミングで、専用の博士課程フォルダを作成しておくと後々非常に役立ちます。モチベーションを維持できる気の利いた名前をつけておきましょう。私の場合は、大好きなバンドPearl Jamから着想を得て「PhD Jam」と命名しました。フォルダには、自主的に勉強した記録、指導経験の記録、サイエンス・エンゲージメント活動の記録(自身で主宰した企画・Pint of Scienceをはじめとするイベントへの登壇経験等)、成果に繋がらなかった実験の記録(例えば、免疫組織化学実験・プログラミングを用いた派生的な試み等)を格納しておきます。こうしておけば、取り組んだすべての活動履歴が残ることになり過去に遡って追跡できるため、論文執筆作業の負担がやや軽減されます。また、失敗した試みを記録として残しておくと将来的な検証や追加調査の際に役立ちます。

10. 締めくくり:焦らず落ち着いて挑みましょう

口頭試問は博士課程の3~6年間、あるいはそれ以上の年月を費やして苦労を重ねた努力の集大成です。緊張するかもしれませんが、楽しむつもりで挑みましょう。実際のところ、自分自身と指導チームを除けば、あなたの学位論文を最初から最後まで真剣に熟読してくれる存在は世界中でこの審査員数名だけなのです。自分が優秀な研究者に成長したことを示すための晴れ舞台だと思いましょう。

 

若手研究者向けのキャリアやライフプランに関するその他のヒントを、プロテインテックホームページ(英語版:www.ptglab.com)のECR(Early Career Researcher)Hubで紹介しています。

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