ポリクローナル抗体VSモノクローナル抗体

どちらのタイプも独自の長所と短所があり、幅広いアプリケーションに使用できます。


はじめに

抗体は、免疫グロブリンと呼ばれる大きなY字型のタンパク質で、外来分子と遭遇した際の適応免疫応答の一環として、B細胞によって産生されます。エピトープという特定の配列(通常4~6アミノ酸程度の領域)に対する強い親和性により、各種抗体は対象のタンパク質を同定・検出する研究用途のアプリケーションで幅広く使用されています。利用可能な抗体のアイソタイプの中で、IgGは研究のために最も一般的に使用されています。様々な研究のニーズに応えるべく、科学者が利用できる抗体には、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の2種類の抗体が存在します。ポリクローナル抗体は抗原全体に対する非相同的なIgG混合物で構成され、モノクローナル抗体は1つのエピトープに対する単一のIgGで構成されます(図1.)。

本記事は、使用するアプリケーションに応じて最適なタイプの抗体を選択できるように、この2種類の抗体の利点と欠点を総合的に解説することを目的としています。

ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のイラスト

図1. A)ポリクローナル抗体は同一抗原の異なるエピトープに結合する。B)モノクローナル抗体は標的抗原上の同じエピトープに結合する。

ポリクローナル抗体vsモノクローナル抗体

この表では、2種類の抗体の主な違いを5つ取り上げています。

ポリクローナル抗体

モノクローナル抗体

特定の抗原に対して分泌される免疫グロブリンの混合体を指す。 形質細胞(プラズマB細胞)の単一クローンが産生する均質な免疫グロブリンを指す。
別々の形質細胞(プラズマB細胞)によって産生される。 同一の形質細胞(プラズマB細胞)のクローンによって産生される。
抗体産生にハイブリドーマ細胞株を必要としない。 抗体産生にハイブリドーマ細胞株を必要とする。
不均一な抗体群。 均一な抗体群。
同一抗原上の異なるエピトープと結合する。 抗原上の特定のエピトープと結合する。

プロテインテックの関連製品:一次抗体

ポリクローナル抗体:利点と欠点

利点:

  • 安価かつ比較的短時間で作製可能(約3ヶ月)。
  • 複数のエピトープを認識するため、抗原に対する抗体の親和性が総合的に高い。
  • 存在量の少ないタンパク質に対する検出感度が高い。
  • 標的タンパク質の捕捉能力が高い(サンドイッチELISAの捕捉抗体として推奨される)。
  • 抗体の親和性により、標的抗原への迅速な結合が可能(タンパク質を迅速に捕捉する必要のあるアッセイに推奨される。例:IP、ChIP)。
  • ネイティブタンパク質の検出に優れている。
  • 抗体標識物質とのカップリングが容易で、抗原への結合能力に影響がない場合が多い。

欠点:

  • 異なるタイミングで別々の動物個体を用いて作製されるため、バッチ間の変動がある。
  • 複数のエピトープを認識するため、交差反応性を示す可能性が高い(アフィニティ精製した抗体では交差反応性が最低限に抑えられる)。

モノクローナル抗体:利点と欠点

利点:

  • バッチ間の再現性が高い(高い均質性)。
  • 同一抗体の大量生産が可能(診断薬製造や医薬品開発をする場合にメリットとなる)。
  • 交差反応性を示しにくい性質を反映した、エピトープへの高い特異性。
  • タンパク質の定量アッセイにおいて感度が高い。
  • バックグラウンドノイズが低い。

欠点:

  • 生産コストが高い。複数のモノクローナル抗体のプールを生成することが必要。
  • ハイブリドーマ化したクローンの作製と開発に、時間を要する(約6ヶ月)。
  • 抗体標識した場合、抗原への結合能力が変化しやすい(例:色素体、蛍光色素)。

組換え抗体

次世代型のモノクローナル抗体として組換え抗体(リコンビナント抗体)が存在し、将来的に主流の抗体製造法になると考えられています。組換え抗体は、モノクローナル抗体であり、免疫化動物のB細胞や形質細胞由来の抗体重鎖および軽鎖のDNA配列をin vitroでクローニングすることによって作製されます。ハイブリドーマによる従来のモノクローナル抗体作製法とは異なり、組換えベクターを発現宿主(例:大腸菌)に導入して抗体を産生させます。この組換え技術によってロット間変動がほとんどなくなり、モノクローナル抗体の性質のばらつきの原因となるハイブリドーマ細胞の遺伝的浮動のリスクが排除されます。
プロテインテックは、様々な種類の組換え抗体を提供しています。また、毎月新しいターゲット抗体を発売しています。製品や製造プロセスに関する詳細はこちら(組換え抗体(リコンビナント抗体))をご覧ください。

 

 プロテインテックが販売する抗体のイラスト(従来型の一次抗体および二次抗体、ウサギモノクローナル組換え抗体、アルパカVHH Fc組換え抗体、アルパカVHH抗体(別名ナノボディ))

 

まとめ

ポリクローナル抗体は、いくつかの異なる免疫細胞から産生されます。ポリクローナル抗体は、同一抗原に対して親和性を持つ一方、含まれるそれぞれの抗体は異なるエピトープに対して親和性を持ちます。一方、モノクローナル抗体は、特定の親細胞のクローンである、同一の免疫細胞から産生されます。

単一のエピトープに特異的で性質の等しい抗体を大量に必要とする医薬品開発等のアプリケーションでは、モノクローナル抗体がより適したソリューションとなります。しかし、一般的な研究用アプリケーションの場合、概して、ポリクローナル抗体の示す長所がモノクローナル抗体の示す長所よりも重要な場合があります。小さなターゲット抗原を使用して血清のアフィニティ精製を実施することにより、ポリクローナル抗体の有用性はさらに広がります。