mNeonGreen vs GFP

mNeonGreen:オワンクラゲ由来のGFPタンパク質とは異なる系統の緑色蛍光タンパク質


mNeonGreenと呼ばれる、新たな明るい単量体の黄緑色蛍光タンパク質が近年発表されました。mNeonGreenタンパク質は、広視野顕微鏡や超解像顕微鏡等の顕微鏡観察アプリケーションにおいて、既に頻繁に使用されています。本稿では、mNeonGreenとはどのような蛍光タンパク質であるのかについて解説していきます。

mNeonGreen vs GFP—両者の違いとは?

mNeonGreenの由来

現在広く利用されているGFP(Green Fluorescent Protein、緑色蛍光タンパク質)は、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)から単離された蛍光タンパク質です。GFPタンパク質は、特定スペクトルへの反応性や特定の機能性を獲得させるために数多くの遺伝子改変が行われてきており、これまでに様々なGFPバリアント(誘導体、変異体/改変体)が作製されています。例えば、EGFP(enhanced GFP)は、最もよく知られているGFPバリアントの1つであり、最大励起波長488nm/最大蛍光波長507nmを示します。ほとんどの顕微鏡のフィルター設定は、このようなGFPバリアントの波長に対して最適化されています。

クラゲ由来蛍光タンパク質とmNeonGreenの進化距離

一方、mNeonGreenはGFPバリアントではありません。mNeonGreenは、ナメクジウオの1種であるニシナメクジウオ(Branchiostoma lanceolatum)の多量体の黄色蛍光タンパク質に由来します。したがって、mNeonGreenは、クラゲ由来の蛍光タンパク質とは進化的に遠い関係にあります。蛍光タンパク質を構成するアミノ酸配列の相同性は、mNeonGreenと一般的なGFPバリアント間で約20~25%程度にすぎません。

Comparison of EGFP(1) and mNeonGreen(2) amino acid sequences

EGFP(1)およびmNeonGreen(2)のアミノ酸配列の比較
mNeonGreenをコードするDNA配列はこちらをご参照ください。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KC295282.1

https://www.ebi.ac.uk/ena/data/view/KC295282

各種GFPバリアントとmNeonGreen間での相同性が低いことから、GFPバリアントに対する一般的なアフィニティ結合ツールであるGFP抗体は、mNeonGreenには結合しません。反対に、mNeonGreen抗体はGFPバリアントに結合しないと予測されます。

mNeonGreenの励起波長&蛍光波長と輝度

mNeonGreenの最大励起波長は506nmであり、最大蛍光波長は517nmです(Shaner et al., 2013)。mNeonGreenの波長は、多くのGFP用のフィルター設定と互換性があります。GFP用フィルターによる観察時、mNeonGreenはGFPよりも3倍程度明るい蛍光シグナルを示し、フィルターを最適化すれば更に明るいシグナルを観察できる可能性があります。

さらに、mNeonGreenはEGFPよりも安定性が高く、レーザー照射による退色が起こりにくい傾向にあります。したがって、mNeonGreenは共焦点顕微鏡観察や超解像顕微鏡観察に非常に適しており、特に発現量が少ない融合タンパク質を研究したい場合に適しています。

mNeonGreenのサイズと構造

mNeonGreenは、237アミノ酸残基からなり、その分子量は26.6kDaに相当します。アミノ酸配列は異なりますが、mNeonGreenのサイズは、EGFPのサイズ(239アミノ酸残基、分子量26.9kDa)と非常に類似しています。mNeonGreenの結晶構造は、今のところ明らかになっておらず、論文等も発表されていません(本ブログ記事執筆時点。[ブログ記事公開後に追記:現在はデータベース上に構造が公開されています。PDB Entry ID: 5LTP])。

 

線虫(C. elegans)等の多細胞生物におけるmNeonGreenの発現

Hostettlerらは、線虫(C. elegans)におけるGFP融合タンパク質とmNeonGreen融合タンパク質の比較を実施しました(Hostettler et al., 2017)。著者らは、mNeonGreenは、GFPの過剰発現と比較して、同等の明るさを示すと同時に、例えば今回の研究で調査した、GFPを導入しても観察が難しい組織における、有用な代替蛍光タンパク質となると述べています。総括すると、この研究によって多細胞生物のin vivoイメージングにおいて、mNeonGreenはGFPよりも明るい蛍光を観察できる代替蛍光タンパク質となることを立証したと結論付けています。

 

GFPおよびmNeonGreenのアプリケーション

GFPタンパク質やGFPバリアントタンパク質は、1990年代初期に分子生物学的ツールとして導入されて以来、以下に記載するような多くのアプリケーションで広く使用されてきました。

  • 免疫蛍光染色(広視野顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡)
  • 免疫沈降(IP)/共免疫沈降(Co-IP)
  • 質量分析(MS)
  • 酵素活性測定
  • RNA免疫沈降(RIP)/クロマチン免疫沈降(ChIP)
  • レポーターアッセイ

様々な実験条件で良好な結果を得ることを目的として、GFP抗体GFP-Trap®GFP-Booster等の専用の研究ツールが考案されています。さらに、ストークスシフト拡大型バリアント、スプリット蛍光タンパク質型バリアント、pH感受性バリアント、折りたたみ速度改善型バリアント、酸化還元感受性バリアント、光反応性バリアント等の、スペクトル特性が改良された種々のアプリケーションに最適化されたGFPバリアントが開発されています。そのため、GFPタンパク質自体は、PubMedで34,000回以上も引用されています。

これまでのところ、mNeonGreenは主に、細胞、組織、臓器中に融合タンパク質として発現させ、発現タンパク質を広視野顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡等で解析するために用いられています。mNeonGreenは、STED(Stimulated emission depletion microscopy)法において、より安定的に蛍光を観察できる傾向があるようで、より多くの画像を撮影できます。その発現パターンはGFPを強く発現させた場合と同一、または酷似しています(Hostettler et al., 2017)。

GFPが顕微鏡観察ツールから始まり、生化学アプリケーションへと発展したように、ChromoTek(クロモテック)では以下の様々なアプリケーションにmNeonGreenの応用が拡大していくことを確信しています。

  • 免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)

mNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)(マウスモノクローナル抗体)

  • 免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)

mNeonGreen-Trap

:アガロースビーズまたは磁性アガロースビーズに結合したアルパカ由来の単一ドメイン抗体(sdAb:single-domain antibody、別名:VHH抗体、Nanobody®)です。
質量分析、酵素活性測定等の生化学アプリケーションに利用できます。免疫沈降にmNeonGreen-Trapを使用することで、mNeonGreen融合タンパク質とその相互作用因子を迅速かつ効率的に単離することが可能です。

  • ウェスタンブロット(WB:Western blot)

mNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)(マウスモノクローナル抗体)

  • ELISA

mNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)(マウスモノクローナル抗体) 

mNeonGreenに関する文献

現在のところ(本ブログ記事執筆時点)、mNeonGreenに関する文献はPubMedで12回引用されています。Google scholarで検索すると、一部無関係な文献も含まれるものの、約300件の検索結果がヒットします。

そして、我々の知る限りでは、最初に免疫蛍光染色およびウェスタンブロットに使用できるmNeonGreen抗体の提供を開始した抗体製造メーカーはChromoTekです。その製品とは、IgG2aサブタイプを持つマウスモノクローナル抗体であるmNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)です。本製品は、免疫蛍光染色(IF)、ウェスタンブロット(WB)、ELISAに使用できます。

mNeonGreen抗体の親和性

ChromoTekは、mNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)の結合特性について検証試験を実施しており、「解離定数(KD)=3.5nM」と非常に高い親和性を有することが確認されています。さらに、ChromoTekのmNeonGreen-Trapは、mNeonGreen融合タンパク質とその相互作用因子の免疫沈降について検証試験や特性解析を実施しています。mNeonGreen-Trapは、「解離定数(KD)=2nM」を示し、市販されているmNeonGreenのプルダウンアッセイ用試薬の中で、最も親和性が高いと考えられます(本ブログ記事執筆時点)。

mNeonGreen抗体(カタログ番号:32F6)およびmNeonGreen-Trapは、ChromoTek製品であり、ChromoTekは2020年10月よりプロテインテックグループのブランドの一部になっております。日本国内におけるプロテインテック製品の販売は、「コスモ・バイオ株式会社」を通じて行っております。お見積り・納期確認・ご注文は、「コスモ・バイオ株式会社 代理店」にお問い合わせください

 

mNeonGreen-Trap®を無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。

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(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
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参考文献

N C Shaner, et al. A bright monomeric green fluorescent protein derived from Branchiostoma lanceolatum. Nat Methods. 2013 May;10(5):407-9.

L Hostettler, et al. The Bright Fluorescent Protein mNeonGreen Facilitates Protein Expression Analysis In Vivo. G3 (Bethesda). 2017 Feb 9;7(2):607-615.