ゲスト寄稿 | ミトコンドリアは単なる細胞の発電所ではありません

ミトコンドリアは、細胞の発電所として機能することで知られていますが、現在では様々な疾患との関わりも明らかになっています。

Sophie Quick著

ミトコンドリアは、原始細菌と初期の真核細胞とが10億年前に融合した結果であり、種を定義する内部共生をもたらします。これらの細胞小器官は、ATP-プロトンポンプを介して細胞の化学エネルギーを生成するだけでなく、シグナル伝達、分化、アポトーシスを含む多くの細胞プロセスの主要なプレーヤーとして浮上しています。ヒト細胞一つあたり、多い場合は数千、少ない場合は数十のミトコンドリアが見られ、絶えず分裂と融合を起こしている非常に動的なネットワークを包含しています。

ミトコンドリアDNA(mtDNA)における遺伝性または自然発生的な突然変異は、ミトコンドリア病と呼ばれる障害の特定のサブセットをもたらします。さらに、ミトコンドリアは、多くの一般的なヒト疾患に関係しています。細胞プロセスおよびミトコンドリアダイナミクスに影響を及ぼす主要なエフェクタータンパク質の変化は、いくつか例を挙げると、神経変性、心血管疾患、および癌で特定されています。ここでは、これらのタンパク質のいくつかが、これらの疾患の選択された例の病態または治療において果たす役割を示す、最近18か月に発表された研究を調査します。

パーキンソン病におけるミトコンドリア

ミトコンドリアは、黒質のドーパミン産生脳細胞が影響を受ける変性状態であるパーキンソン病(PD)と、長い間関連付けられてきました。これらのドーパミン作動性ニューロンは、ミトコンドリアの機能喪失と、主にα-シヌクレインからなるタンパク質性沈着物の蓄積を伴うプロセスを経て、徐々に死にます。このプロセスは完全には理解されていませんが、現在の治療では症状の緩和しかできず、治癒することができない特徴的な運動障害の症状を引き起こします。

損傷タンパク質とミトコンドリアの分解に関与するE3リガーゼであるパーキンの突然変異は、約20年前にPDの原因として初めて特定されました。これらの突然変異はパーキン基質の蓄積につながり、歴史的にまれな家族性の疾患に関連付けられています。しかし、最近の研究(Andersenら, 2016)は、酸化ストレスがパーキンに同じように影響を与えることを示しています。酸化ストレスは孤発性PDの主な因子の1つであるため、パーキンの関与は、現在PD症例の95%にまで及んでいます。PDのマウスモデルを使用して、研究者は、パーキンの機能不全に関与するシグナル伝達経路も調査し、薬剤開発に適した標的となる2つの重要なタンパク質を見つけました。TFEBは、ミトコンドリアの分解に関与し、一方PGC-1αは、ミトコンドリアの合成に関与しており、両方とも酸化ストレスでダウンレギュレートされることがわかりました。興味深いことに、PDマウスモデルでPGC-1αの発現が増加すると、ミトコンドリア機能が回復し、ニューロン死が防止されました。これは、この疾患の予防治療の潜在的な標的を示しています。

6月に発表された研究(Di Maio, 2016)は、病因の2つの特徴であるα-シヌクレインの蓄積とミトコンドリアの機能障害が、特定のミトコンドリア受容体TOM20(Translocase of the Outer Machinery 20)を介してどのように関連しているかを明らかにしています。TOM20は、ミトコンドリアのタンパク質インポート機構の一部として外膜上に見られます。この研究は、PDのげっ歯類モデルにおいて、α-シヌクレインの複数のタイプがTOM20に強い親和性で結合し、共受容体TOM22との相互作用を防ぎ、ミトコンドリアのエネルギー生成機能に影響を及ぼすことを示しました。影響を受けたミトコンドリアの非効率性と、蓄積したα-シヌクレインにより生じる毒性が、ともにPD患者の脳組織で確認され、さらに研究チームは細胞培養において、α-シヌクレインがTOM20に結合するのを防ぐことが、その損傷の防止に十分であることも示しました。TOM20を介したミトコンドリアとα-シヌクレインとの共局在は、今後の研究によってこのタンパク質の修正がin vivoで疾患症状を改善できるかどうかを確認する必要があるものの、PD研究において興味深いターゲットを提供しています。

関連製品

TOM20 TOM22
1:100の希釈で11802-1-AP(TOM20抗体)を用いたパラフィン包埋ヒト神経膠腫のIHC(10倍レンズ下) 1:100の希釈で11278-1-AP(TOMM22抗体)を用いたパラフィン包埋ヒト結腸癌のIHC(10倍レンズ下)

癌におけるミトコンドリア

癌における腫瘍細胞の制御されていない分裂は、細胞のエネルギー生成方法の、ミトコンドリアの酸化的リン酸化から解糖への切り替えを伴います。これは、ワールブルク(Warburg)効果として知られています。ミトコンドリア機能障害が癌の根本原因であるという当初の理論は、変異した癌遺伝子の理解により置き換えられましたが、ミトコンドリアは依然として腫瘍発生の鍵であり、アポトーシスシグナル伝達や酸化還元調節などの経路に影響を与えることは明らかです。癌の進行に関する重要な洞察は、昨年あるグループ(Kashatus et al, 2015)が、癌細胞が実際にミトコンドリアを乗っ取って同化呼吸の増強をサポートし腫瘍増殖を促進する方法を実証したときに、明らかにされました。多くの癌に見られるRas遺伝子の突然変異により、細胞培養およびげっ歯類モデルの両方において、ミトコンドリアは、異常に高い速度で分裂します。さらに、ミトコンドリア複製をノックダウンすることにより、研究者は腫瘍の増殖を阻止することができました。

ミトコンドリアの仲介によるアポトーシスも、癌細胞の潜在的な治療法として注目されています。特定のミトコンドリアタンパク質を標的とすることにより、ミトコンドリア膜の透過性を亢進させて、破壊的なカスパーゼ経路を活性化するシトクロムcなどのタンパク質を漏出させることによって、細胞死を開始させることができると提案しました。実際、今年の5月、研究者(Iyer et al, 2016)がアポトーシスを引き起こす標的化抗体を用いてBakを直接活性化する方法をNatureの論文で報告しました。彼らは、活性化部位の三次元構造を特定しており、それによって新しい標的部位を持つ薬剤のデザインと開発に資する情報が得られる可能性があります。

心血管疾患におけるミトコンドリア

世界の第1位の死因である冠動脈性心疾患(CHD)は、心筋細胞に供給される酸素の不足と説明されています。低酸素症はATP産生を抑制し、細胞ストレスとミトコンドリアによる活性酸素種(ROS)の過剰産生を引き起こします。ROSの蓄積は心臓細胞のアポトーシスと壊死につながるため、ROSの蓄積は研究者により疾患の病因と密接に関連していると考えられてきました。

ROSの蓄積は心臓細胞のアポトーシスと壊死につながるため、ROSの蓄積は研究者により疾患の病因と密接に関連していると考えられてきました。

欠陥のあるミトコンドリア呼吸複合体は、この疾患進行のメカニズムにおいて重要な役割を果たす因子です。健康なミトコンドリアが低酸素に反応して能力を増加させ、ATP産生の「予備」を利用する能力は、CHDで損傷を受ける可能性のある因子によって調節されることが提案されました。昨年、研究チーム(Pflengerら, 2015)は、複合体IIのSdhが低酸素後の細胞生存を制御する代謝センサーであるというエビデンスを報告しました。このタンパク質を標的とすることで、この疾患の進行に関する新しい情報が得られる可能性があります。

ミトコンドリアの動的な性質も、疾患の進行に重要な役割を果たします。分裂と融合のネットワークは、ミトコンドリア融合タンパク質Mfn1とMfn2(ミトフシン1と2)を含む多くのタンパク質によって調節されています。これらのタンパク質の過剰発現は、細胞が低酸素状態になった後のROSの産生増加から細胞を防御すると考えられます。昨年、マックスプランク研究所のチーム(Mourierら, 2015)は、Mfn2欠損心臓細胞の代謝が損なわれていることを示しました。これは、経路のさらに下流で生成された酵素を細胞に補充することで部分的に救済でき、Mfn2の突然変異を有する患者の治療選択肢となり得ることを示しています。

ミトコンドリアは、多くのメカニズムを介したROSの生成を通じて、心臓疾患の進行に影響を及ぼします。研究が進むに従って、ミトコンドリアは、心臓保護の興味深い標的になりつつあります。

MFN1
13798-1-AP(MFN1抗体)を1:200の希釈率で使用したパラフィン包埋ヒト肺癌組織スライドのIHC(40倍レンズ下)。

今後の展望

ここで言及されているタンパク質の多くは、融合、分裂、マイトファジーなどのミトコンドリアのダイナミクスへの影響に基づいて、様々な疾患に関連付けることができるので、幅広い研究分野に興味深いターゲットを提供します。フィラデルフィア小児病院(Children’s Hospital of Philadelphia)のミトコンドリア研究者によって開拓されたある見解では、症状のある臓器に集中して病気を治療すると、生体エネルギー論が完全に見落とされることを示唆しています(Picardら, 2015)。この視点は、mtDNAによってコードされる必須エネルギー遺伝子と核DNA内の遺伝子との間の相互作用が、健康と疾患においてより重要な役割を果たすという考えを提案しています。現在、疾患治療においては臓器に焦点を当てたアプローチが好まれていますが、おそらくミトコンドリアに焦点を当てたアプローチは、新しい研究と新しい治療法の開発を刺激するのに役立つ可能性があります。一方、急速に進歩している胚を対象としたミトコンドリア補充療法(ミトコンドリア病の母親の欠陥のあるmtDNaを健康なmtDNAに置き換える)の分野は、真の個別化医療への道を開く可能性があります。この新しい分野では、遺伝物質の継承に手を加えることは身体的および倫理的な意味合いを持っているため、研究者は多くの問題を考慮する必要があります(Falkら, 2016)。発生のすべての段階におけるミトコンドリアの役割を理解することで、様々な疾患をモデル化・治療する能力が発展します。

参考文献

1. Andersen, Julie et al. Detrimental effects of oxidative losses in parkin activity in a model of sporadic Parkinson’s disease are attenuated by restoration of PGC1 alpha. Neurobiology of Disease, June 2016
2. Di Maio, Roberto et al. α-Synuclein binds to TOM20 and inhibits mitochondrial protein import in Parkinson’s disease, Science Translational Medicine 08 Jun 2016: Vol. 8, Issue 342, pp. 342ra78 

3. Kashatus, Jennifer et al. Erk2 Phosphorylation of Drp1 Promotes Mitochondrial Fission and MAPK-Driven Tumor Growth. Molecular Cell, Volume 57, Issue 3

4. Iyer, Sweta et al. Identification of an activation site in Bak and mitochondrial Bax triggered by antibodies. Nature Communications, 2016; 7: 11734 

5. Pfleger, J et al, Mitochondrial complex II is a source of the reserve respiratory capacity that is regulated by metabolic sensors and promotes cell survival, Cell Death and Disease (2015) 6, e1835;
6. Mourier, A. et al, Mitofusin 2 is required to maintain mitochondrial coenzyme Q levels. The Journal of Cell Biology, 2015; 208 (4): 429
7. Picard, M. et al. Mitochondrial functions modulate neuroendocrine, metabolic, inflammatory, and transcriptional responses to acute psychological stress. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2015
8. Falk, Marni J. et al. Mitochondrial Replacement Techniques — Implications for the Clinical Community. New England Journal of Medicine, 2016

Blog

Posted:
19 August, 2016

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