ゲスト寄稿 | MHC CLASSⅠ分子とがんとの関連

MHC—主要組織適合遺伝子複合体—

Simon Hackett著

主要組織適合遺伝子複合体(MHC:Major histocompatibility complex)分子は、ヒト白血球抗原(HLA:human leukocyte antigens)としても知られており、6番染色体上の遺伝子座に存在して、免疫系の恒常性の制御および調節をしています。MHC分子は、免疫系に対する抗原ペプチドの提示において重要な役割を果たすだけでなく、がんや自己免疫疾患においても幅広い役割を果たします。実際に、MHCクラスⅠの発現のダウンレギュレーション(発現低下)または完全な発現の阻害は、がん特異的なT細胞とNK(ナチュラルキラー)細胞に対するペプチドの提示を妨げ、がん細胞の宿主免疫系からの回避の一因になっています(1)。

MHCクラスⅠとがんとの関係をさらに明らかにするために、Xiaogangらが6番染色体上のヘテロ接合性の喪失(LOH:loss of heterozygosity)を調べると、腫瘍中のMHCクラスⅠの表出との相関が認められました(2)。研究チームは、MHCクラスⅠの発現を、ヒト食道扁平上皮がんの切片、87サンプルと正常食道組織で比較しました。著者らは、MHCクラスⅠA(下記のMHC分類を参照)に特異的なプロテインテックの抗体(カタログ番号:66013-1-Ig)を使用して、腫瘍切片のMHCクラスⅠの発現に著しい違いが認められる一方、正常切片では一様に発現および染色が認められることを示しました。MHCクラスⅠの発現は、腫瘍サンプルのうち23%でダウンレギュレーションが認められ、34.5%で完全に消失していました。

このテーマに関する幅広い文献に反映されているように(3)、この結果は、MHCクラスⅠががん細胞においてダウンレギュレーションされていることを示す最初の報告ではありません。前述した、腫瘍細胞でMHCクラスⅠのダウンレギュレーションが生じる現象は、免疫システムを回避するための進化的メカニズムの一環と考えられています。実際、MHCクラスⅠの発現と腫瘍の予後の間には強い相関関係があり、MHCクラスⅠの表出が少ない腫瘍では予後不良の事例が認められます(4)。

MHC分子は、3種類に分類されます。

  • MHCクラスⅠは、さらにA、B、Cの3種類に分かれます。細胞内で分解され、細胞表面へ輸送されたペプチドは、MHCクラスⅠ分子に結合した状態で提示されます。
  • MHCクラスⅡは、さらに、DP、DM、DOA、DOB、DQ、DRの6種類に分かれます。MHCクラスⅡ分子は、細胞外の抗原に由来するペプチドをT細胞に対して提示し、その結果、T細胞が活性化しB細胞が抗体を産生します。
  • MHCクラスⅢは、補体因子等の発現を制御します。

プロテインテックの関連製品:MHCクラスⅠ
              MHCクラスⅡ

治療への応用

MHCとがん細胞の関係性は、NK細胞を使用する治療開発の標的とされています。前述したように、NK細胞は、非自己のMHCクラスⅠを持つ細胞を標的とします。MHCクラスⅠの発現は、がん組織で変化することが多いことから、がん患者に同種異系NK細胞を注入する治療の有効性を検討する臨床試験がいくつか行われています(5)。多くの試験で異なる結果が示されていますが、メラノーマ患者に対する何らかの有効性はいくつかの試験で認められています(6)。

したがって、MHCクラスⅠの発現とがんの関係性が、急速に発展するがん治療の分野で関心を集める重要な領域であることは明らかです。プロテインテックでは、ヒト、マウス、ラットのMHC/HLA分子を認識する抗体を、研究ニーズに合わせて幅広く取り揃えています。MHCクラスⅠに関連する製品ラインアップはこちらをご覧ください。

参考文献

  1. Hicklin, D. J et al. (1999) HLA class I antigen downregulation in human cancers: T-cell immunotherapy revives an old story. Mol. Med. Today. 5, 178-186.
  2. Xiaogang, Z. et al. (2011) Loss of heterozygosity at 6p21 and HLA class I expression in esophageal squamous cell carcinomas in China. Asian Pacific J. Cancer Prev. 12, 2741-2745.
  3. Ferris et al. (2005) Human leukocyte antigen (HLA) class I defects in head and neck cancer: molecular mechanisms and clinical significance. Immunol. Res. 33, 113-133.
  4. Zeestraten et al. (2013) Combined analysis of HLA class I, HLA-E and HLA-G predicts prognosis in colon cancer patients. B. J. Cancer. 1-10
  5. Cho, D et al. (2011) NK cell-based immunotherapy for treating cancer: will it be promising? K. J. Haematol. 46, 3-5.
  6. Arai, S et al. (2008) Infusion of the allogeneic cell line NK-92 in patients with advanced renal cell cancer or melanoma: a phase I trial. Cytotherapy. 10, 625-32