血液はどのように凝固するのか?

血液は、酸素や栄養を細胞に運搬する極めて重要な機能を担う、必要不可欠な液体です。


ヒトの体重のおおよそ1/13~1/10は、血液です(男性:約5.5L、女性:約4.5L)。血液は、私達の細胞に酸素や栄養素を運搬するだけでなく、免疫システムや体温の恒常性にも重要な役割を果たしています(1)。

血液に関するいくつかの事実

―1パイント(約568mL)の献血で、3人の人間を救うことができます。

―血液は常に赤いとは限りません。

―ヒトの体内には全身を網羅する10万kmの血管が走っています。

―血小板、白血球、赤血球が、血漿を浮遊しています(血漿:血液の黄色い液体成分)。

―ヒトの血液には、微量の金属原子が含まれています。

―赤血球には、核がありません。

―集団によって構成比に差はありますが、A、B、AB、Oの4つの血液型があります。各血液型は、RhD陽性(Rh+)またはRhD陰性(Rh-)のいずれかに分類され、合計8つの主要な血液型が存在します。

血液が固まっていく凝固作用—血液凝固カスケード反応

凝固は、血液凝固カスケードと呼ばれる多段階のプロセスです(2)。血液凝固カスケードは、外因系、内因系、共通系の3つの経路に分類されます(図1)。

血液凝固カスケードのパスウェイポスター

図1. 血液凝固カスケード。経路のポスター[PDF]はこちらからダウンロードできます。

外因系は、損傷を受けた細胞や組織から開始します。外因系は組織因子経路とも呼ばれます。内因系は、外因系と並行する経路で、第Ⅻ因子によって開始され、トロンビン活性化を誘導します(図2)。内因系は、血液が損傷した血管壁中のコラーゲンと接触することで開始します。両系とも最終的にはプロトロンビン活性化因子を活性化し(第Ⅹ因子→第Ⅹa因子)、プロトロンビンをトロンビンに変換し、フィブリノーゲンをフィブリンに変換する共通経路が開始します(3)。ここに述べたことは簡略化した説明であることに留意する必要があり、このプロセスはさらに複雑であることが研究により示唆されています。しかし、こうした概略を知ることは、血液凝固を理解するために有益なアプローチです。

第Ⅻ因子抗体およびAlexa Fluor oat Anti-Mouse IgGを使用した-20度エタノール固定HepG2細胞の免疫蛍光染色

図2. 第Ⅻ因子抗体(カタログ番号:66089-1-Ig、希釈倍率1:100)と、Alexa Fluor 488標識AffiniPureヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体を使用した、HepG2細胞の免疫蛍光染色解析像(-20℃エタノールで細胞を固定)。

13種類の血液凝固因子

身体は、凝固因子を活性化し、特殊なタンパク質を形成させて傷口にその塊を定着させる作用により血液中の成分を塊にします。ヒトには13種類の血液凝固因子(4)があり、その大部分は肝臓で産生されています(表1)。

血液凝固因子 一般名 ソース 経路 分類
第I因子 フィブリノーゲン 肝臓 共通系 フィブリノーゲン系
第Ⅱ因子
(図3)
プロトロンビン 肝臓 共通系 ビタミンK依存性タンパク質
第Ⅲ因子            組織因子(トロンボプラスチン) 損傷を受けた組織・細胞、血小板がトロンボプラスチンを放出する 外因系 N/A
第Ⅳ因子 カルシウムイオン 骨由来、および小腸内膜からの吸収 外因系、内因系、共通系 N/A
第V因子
(図4)
プロアクセレリン(不安定凝固因子) 肝臓および血小板 N/A フィブリノーゲン系
第Ⅵ因子 アクセレリン(現在は欠番) N/A 共通系 N/A
第Ⅶ因子 プロコンバーチン(プロコンベルチン)(安定因子) 肝臓 外因系 ビタミンK依存性タンパク質
第Ⅷ因子
(図5)
抗血友病因子 血小板および血管内皮 内因系 フィブリノーゲン系
第Ⅸ因子 クリスマス因子/血漿トロンボプラスチン成分 肝臓 内因系 ビタミンK依存性タンパク質
第X因子 スチュアート・プロワー因子 肝臓 共通系 ビタミンK依存性タンパク質
第Ⅺ因子 血漿トロンボプラスチン前駆体 肝臓 内因系 接触因子系
第Ⅻ因子
(図6)
ハーゲマン因子 肝臓 内因系 接触因子系
第XIII因子               フィブリン安定化因子 肝臓 共通系 フィブリノーゲン系

表1. 血液中の凝固因子(N/A:該当なし)。

 

第Ⅱ因子抗体を使用したパラフィン包埋ヒト肝臓がん組織スライドの免疫組織化学染色

図3. F2(第Ⅱ因子)抗体(カタログ番号:66509-1-Ig、希釈倍率1:150)を使用した、パラフィン包埋ヒト肝臓組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズを使用)。

第Ⅴ因子抗体を使用したパラフィン包埋ヒト肝臓がん組織スライドの免疫組織化学染色

図4. F5(第Ⅴ因子)抗体(カタログ番号:20963-1-AP、希釈倍率1:200)を使用した、パラフィン包埋ヒト肝臓がん組織スライドの免疫組織化学染色(40倍レンズ使用)。Tris-EDTA buffer(pH9)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。

第Ⅷ因子抗体およびAlexa Fluor 488標識AffiniPure ヤギ抗ウサギIgGを使用した-20度エタノール固定HUVEC細胞の免疫蛍光染色

図5. F8(第Ⅷ因子)抗体(カタログ番号:21485-1-AP、希釈倍率1:25)と、Alexa Fluor 488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体を使用した、HUVEC細胞の免疫蛍光染色像(-20℃エタノールで細胞を固定)。

第XIIIa因子抗体を使用したパラフィン包埋ヒト肝臓がん組織スライドの免疫組織化学染色

図6. 第XIIIa因子抗体(カタログ番号:66325-1-Ig、希釈倍率1:400)を使用した、パラフィン包埋ヒト肝臓がん組織スライドの免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。

血液が正常に凝固しないとどうなるか?血液凝固障害

出血障害は、血液が十分な速度で凝固しない際に生じます。比較的よく認められる、第Ⅱ因子、第Ⅴ因子、第Ⅶ因子、第Ⅹ因子、第Ⅻ因子の欠乏症は、血液凝固障害や異常出血と関連しています。血友病Aや血友病Bは、広く知られている血液凝固障害です。血液が正常に凝固しないため、頻繁にあざが生じ、過剰に内出血が生じます。血友病Aは最もよく認められるタイプの血友病で、凝固第Ⅷ因子の濃度が低いために発症し、血友病Bでは第Ⅸ因子の濃度が低くなります(5,6)。

最後に

正常な身体は、負傷時に血液を凝固させ、必要がなくなれば血塊を除去し、血塊の過剰形成を防止することにより、自身を保護します。血液凝固全体のプロセスは間違いなく複雑です。しかし、このプロセスを詳細に理解することで、凝固を改善する新たな方法の発見や、望ましくない凝固の発生を防ぐ方法を特定できるかもしれません。


参考文献

1. D. A. Millar, N. A. Ratcliffe. The evolution of blood cells: facts and enigmas. Endeavour. 1989;13(2):72-77.

2. Stephanie A. Smith, Richard J. Travers, James H. Morrissey. How it all starts: initiation of the clotting cascade. Biochem Mol Biol. 2015;50(4):326–336.

3. S. Palta, R. Saroa, A. Palta. Overview of the coagulation system. Indian J Anaesth. 2014 Sep-Oct;58(5): 515–523.

4. M. Kalafatis, et al. The regulation of clotting factors. Crit Rev Eukaryot Gene Expr. 1997;7(3):241-80.

5. D. A. Triplett. Coagulation and bleeding disorders: review and update. Clin Chem. 2000 Aug;46(8 Pt 2):1260-9.

6. F. Peyvandi. Rare coagulation disorders: an emerging issue. Blood Transfus. 2007 Oct;5(4):185–186.