Use Able AI chat for product recommendations

乳がん啓発月間特集

10月は疾病の早期発見・リスク要因の低減・患者支援を推進する健康啓発月間です。

乳がん啓発月間

はじめに

乳がんは非常に深刻な疾患です。すべてのがんの中で新規罹患者が最も多く、新たにがんと診断された症例の12%を占め、世界全体では2020年に68万5000名が乳がんで死亡しています(WHO調べ)。乳がん患者の主な死因は原発部位である乳房からの骨、肝臓、脳、肺等の遠隔臓器への転移です。多くの臨床研究や基礎研究で、乳がん治療のアウトカム改善を目指した早期発見アプローチの精度向上や転移に関連する新規マーカーの探索が精力的に進められています。マンモグラフィによる定期的な検診が標準的スクリーニングとして確立されていますが、現在は磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)や超音波検査等のより高度な画像診断技術の導入も進んでいます。乳がんは疾患そのものの不均一性が高く、そのことが化学療法への抵抗性の要因となり治療を困難にしていますが、こうした多様性を識別することでサブタイプ特異的な分子標的療法が可能になります。

乳がんサブタイプ(乳がんの分類)

乳がんは、原発組織(乳管・小葉)、由来する細胞(ルミナル細胞・基底細胞)、ホルモン受容体の発現レベル(エストロゲン・プロゲステロン)、受容体型チロシンキナーゼの発現レベル(HER2)、浸潤性か非浸潤性(上皮内がん)かといった特徴に基づき、いくつかのサブタイプに分類されます。これらのサブタイプは治療の選択肢・予後・転移のリスクに影響を及ぼします。

乳がんサブタイプの概要

 

サブタイプ
主な薬物療法
研究用モデル細胞株

ルミナルA型(ER+/PR+/HER2-)

ER/PRを標的としたホルモン療法(例:タモキシフェン)

MCF7・T47D

ルミナルB型(ER+/PR+/HER2+/-)

ER/PRを標的としたホルモン療法(例:タモキシフェン)、HER2+の場合は抗HER2ヒト化モノクローナル抗体(トラスツズマブ)を併用

BT474・MDA-MB-361

HER2陽性型(ER-/PR-/HER2+)

抗HER2ヒト化モノクローナル抗体(トラスツズマブ)

SKBR3・AU565

基底様‐トリプルネガティブ型
(ER-/PR-/HER2-)

化学療法(カルボプラチン)、PARP阻害剤(オラパリブ)、PD-1阻害剤(ペムブロリズマブ)

MDA-MB-468・BT-20

非基底様‐トリプルネガティブ型
(Claudin-low型・各種非基底細胞型)

化学療法(カルボプラチン)、PARP阻害剤(オラパリブ)、PD-1阻害剤(ペムブロリズマブ)

MDA-MB-231・BT-549

ER:エストロゲン受容体
PR:プロゲステロン受容体
HER2:HER2受容体
+:陽性/-:陰性

乳がん幹細胞(BCSC)

乳がん幹細胞(BCSC:Breast Cancer Stem Cell)は乳がん細胞における存在量はごくわずかであるものの、転移や薬剤耐性の原因となってがんの再発に深く関与する極めて重要なサブ集団です。また、BCSCは最も悪性度の高い基底様乳がんサブタイプに高い割合で認められます。したがって、BCSCは臨床的にも重要な治療標的であり、その特性解明に向けて精力的に研究が進められています。BCSCはEpCAM+/CD44+/CD24-/ALDH1+といった細胞表面・細胞内マーカーを代表的な指標として識別される細胞で、Notch・Wnt/β-Catenin・PI3-K/Akt・Hedgehogシグナル伝達といった細胞内経路によってその挙動が制御されています。このサブ集団を単離して研究するために、BCSCの細胞表面マーカーを検出して目的細胞を分取するFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)やMACS(Magnetic Activated Cell Sorting)といった実験手法が用いられます。その他にもBCSCの幹細胞能の指標評価には、アルデヒド脱水素酵素(ALDH:Aldehyde Dehydrogenase)測定アッセイ、スフェロイド形成アッセイといった実験手法が用いられます。

プロテインテックのBCSC単離製品:フローサイトメトリー用標識抗体・磁気ビーズ細胞分離システム

プロテインテックのBCSC関連製品

EpCAM CD44 CD24 ALDH1 Notch
Wnt β-Catenin PI3-K Akt Hedgehog



CoraLite Plus 標識抗体を使用したマウス脾細胞のフローサイトメトリーFlow cytometry (FC) experiment of mouse splenocytes using CoraLite® Plus 488 Anti-Mouse CD44 (IM7) (CL488-65117)

図1. マウス脾細胞のフローサイトメトリー

左:1x10^6個のマウス脾細胞の細胞表面をCoraLite® Plus 488標識Rat IgG2bアイソタイプコントロール抗体(カタログ番号:CL488-65211、Clone番号:LTF-2、0.5 µg)、CoraLite® Plus 647標識Anti-Mouse CD3 (17A2)抗体(カタログ番号:CL647-65077、Clone番号:17A2、0.5 µg)で共染色した。
右:1x10^6個のマウス脾細胞の細胞表面をCoraLite® Plus 488標識Anti-Mouse CD44抗体(カタログ番号:CL488-65117、Clone番号:IM7、0.5 µg)、CoraLite® Plus 647標識Anti-Mouse CD3 (17A2)抗体(カタログ番号:CL647-65077、Clone番号:17A2、0.5 µg)で共染色した。
細胞は固定処理を実施しなかった。

 

EPCAM抗体を使用したヒト乳がんの免疫組織化学染色 図2. EPCAM/CD326抗体(カタログ番号:21050-1-AP、希釈倍率1:200)を使用したパラフィン包埋ヒト乳がん組織スライドの免疫組織化学染色(x10)。

 

BCSCは細胞固有の多様な特性によって既存のがん治療への抵抗性を示します

  • BCSCは非増殖性であり、細胞周期におけるG0期(休止期)の状態を維持しているため、DNA合成阻害・DNA複製阻害薬等の従来の抗がん剤の細胞傷害作用を回避して薬剤耐性を示します。
  • ABCトランスポーター(ATP-binding cassette transporter)を過剰に発現しており、細胞内に取り込まれた抗がん剤がトランスポーターを介して細胞外へ能動的に排出されることで薬剤耐性を示します。
  • 腫瘍内の低酸素領域に存在することが多く、酸素が欠乏していることで放射線照射に伴うフリーラジカル(活性酸素)生成が妨げられ、放射線治療に抵抗性を示します。また、腫瘍の増殖速度に血管の形成速度が伴わず、腫瘍内血管は未熟で血流に乏しく、血流を介した薬剤送達が妨げられます。

こうした難治性の特性に対し、近年ではBCSC特異的に発現するマーカーを利用したナノ粒子療法等の代替治療法が開発されています。ナノ粒子薬物送達システムの場合、薬剤を内部に封入したナノ粒子は目的細胞の標的マーカー(例:CD44)を認識して結合し、細胞内に取り込まれることで薬剤を送達します。粒子径が小さいため、ナノ粒子は従来のドラッグデリバリーにおいて課題となっていた、溶解性・安定性・薬物動態といった諸問題を克服できると考えられています。また、ナノ粒子は単一のナノ粒子内に複数の薬剤を同時に封入できます(co-encapsulation)。制御異常をきたした複数の経路を同時に標的にすることで、高い可塑性と自己複製能を示すがん幹細胞を極めて効率的に死滅させることができると期待されます。

近年の乳がん研究のブレイクスルー

  • エンハーツ:エンハーツ®(Enhertu®、一般名:トラスツズマブ デルクステカン)は、HER2を極めて高い精度で認識する抗体薬物複合体(ADC)であり、HER2陽性乳癌の治療薬としてFDAに承認され、その後も適応が拡大しHER2低発現の手術不能又は再発性乳癌や特定の非小細胞肺癌・胃癌等の治療に用いられています。https://www.enhertu.com/・NEJM論文
  • City of Hopeが主導した臨床研究は精密医療の治療選択肢として人種の違いに注目し、内分泌療法を実施したホルモン受容体陽性乳がん患者において黒人女性と白人女性を比較すると、病期(ステージ)によって転帰に格差があることを明らかにしました。この研究は2022年9月に開催された、人種/民族マイノリティ・医療サービスが行き届いていない人々におけるがんの健康格差をテーマにした15th AACR Conferenceで発表されました。
  • TAILORx試験:乳がん治療において化学療法を安全に回避できるか検証した臨床試験であり、遺伝子解析に基づいた個別化医療によって、特定のリスク群では化学療法を実施しない場合でも、化学療法とホルモン療法の併用療法と同程度の転帰が得られることを明らかにしています。TAILORx試験・https://www.cancer.gov/news-events/press-releases/2018/tailorx-breast-cancer-chemotherapy 
  • 化学療法抵抗性乳がんの有力な免疫ターゲットが新たに同定され、標準的な化学療法では効果が十分に得られない患者に対する免疫療法の治療選択肢拡大が期待されています。https://www.icr.ac.uk/about-us/icr-news/detail/immune-targets-for-chemotherapy-resistant-breast-cancers-identified

 

プロテインテックのその他のがん研究関連情報はこちらをご覧ください。

Lucie Reboud著(プロテインテック インターン生、Manchester大学、がん研究専攻、博士課程在籍)

 

参考文献

K Song, M Farzaneh. Signaling pathways governing breast cancer stem cells behavior. Stem Cell Res Ther. 2021 Apr 16;12(1):245.

Q Zheng, M Zhang, et al. The Breast Cancer Stem Cells Traits and Drug Resistance. Front Pharmacol. 2021 Jan 28:11:599965.

Y Gao, et al. Dual or multiple drug loaded nanoparticles to target breast cancer stem cells. RSC Adv. 2020 May 19;10(32):19089-19105.

||
New chat

Able™

正在加载,请稍候...