ヒントとコツ | 研究者の「時間管理」と「自己管理」

若手研究者向けに仕事の効率化と心身状態の維持に取り組むための5つのポイントを解説します。


Jasmin Klich著(マックス・デルブリュックセンター博士課程在籍、ベルリン)

ライフサイエンス分野の研究者として働くことは、面白さと知的興奮に満ちたものです。しかし、研究生活は常に挑戦的な側面を伴う活動であるため、何かの拍子にそれが苦難へと転じてしまう可能性があります。燃え尽き症候群等に陥るリスクを回避しながら、研究プロジェクトを順調かつ持続的に進めるためには、いつ全力を尽くしていつ力を抜くべきかを見極めるセンスが重要です。研究者が「生涯学習」の考えのもとに自身の成長とキャリアの開発を続けていく場合、科学的成果の創出と共に、適切な「時間管理(タイムマネジメント)」と「自己管理(セルフケア)」の必要性に迫られるでしょう。本稿では、研究生活において時間管理と自己管理に向き合うための5つのヒントを紹介します。

1. 現実的な目標を設定する

やや小さくても現実的な目標を設定することは、難易度が高いタスクに取り組む場合や先延ばしにしてしまう傾向にある場合に非常に有効です。小さな目標から始めるということは、大きくて意欲的な計画をすべて放棄し、容易で達成可能なタスクのみに終始するという意味ではありません。むしろ、大きな課題に向かう際に生じる鬱憤や不安等のストレスを克服し、現在の状況や必要性に見合った目標を設定するための手段です。完璧すぎるTo Doリストを最初に設定してしまうと、計画通りにいかなかった場合に意欲の低下を招くおそれがあります。あなたの「フル稼働」を前提とせずに、余力を残した現実的なスケジュールを組み立てるようにしましょう。

また、実行するタスクがとてつもなく複雑に思われる場合、タスクをより単純な要素に分割することが最善の対応策となります。自身の負荷を上げて集中的に対処するよりも、着実かつ継続的に対処する方がよりマネジメント可能な方法であると考えられ、研究を大きく前進させることができるでしょう。

2. 自分に適した時間管理術を見つける

研究者にとって時間管理(タイムマネジメント)はなぜ重要なのでしょうか?その理由は、ご自身に合った時間管理術に辿りつけば分かるはずです。適切な時間管理を実行すると、後になって大きな成果が形になって現れることでしょう。

代表的な時間管理術として1980年代に考案された「ポモドーロ・テクニック(Pomodoro Technique)」があります。ポモドーロ・テクニックは、現在も人気を集める手法であり、とてもシンプルな時間管理術です。ポモドーロ・テクニックでは、25分間の作業と短い休憩をセットにして繰り替えし実行します。ポモドーロ・テクニックは小さな目標から始めるというやり方と相性が良く、実行すれば驚きを得るはずです。タスクとメールのチェックを交互に繰り返しながら何時間も作業を続ける場合と比べて、短い時間に集中して作業することで、より多くのタスクを成し遂げられることに気付くことでしょう。2023年に発表された論文では、体系的な休憩のとり方がモチベーションと効率性に良い影響を与えることが断定的に示されており、ポモドーロ・テクニックの効果が裏付けられています[1]。

もう1つの時間管理術として、時間と行動を記録するという単純な方法があります。この手法では、日記やスプレッドシートに、その日に何をしたかをタイムテーブルとして記録します。30~60分単位(または「ポモドーロ」の各作業時間の単位)で実施した主な活動/行動記録を簡単に書き込みましょう。余計な作業が増えるように見えるかもしれませんが、何にどれくらいの時間を費やしているかを明確にでき、作業の効率化・改善へと導くためのヒントを提供します。さらに、本当に重要な事柄に着目でき、タスクの優先順位を適切に決定する際に役立つでしょう。自分の行動に注目することはモチベーションを高める働きがあり、自分の成果を認めることにもつながります。

3. 柔軟に目標を調整する

最初に研究計画を立てることにより、達成を目指す研究課題の構造と分解された要素を確認することができます。計画の立案により研究課題の全体像を把握することは、初期段階の研究の進展で重要となります。しかし、新たに発生した事態に応じて計画を更新することや、時には目標を大幅に変更することも極めて重要な姿勢です。当初の計画に固執しすぎると、長期的な研究活動に不利益を生じさせるおそれがあります。こだわり続ける姿勢は、紙一重の差で「決断」と「執着/頑固さ」という、似て非なるものになり得ることを認識しなければなりません。そのことを忘れず、計画変更も念頭にした上で、研究計画の遂行状況とのバランスを探ってください。例えば、より注意を払う必要があるかもしれない予期せぬタスクをこなす時間をスケジュールに入れておくといったように、ある程度の融通性を計画の中に保持することも有効です。

研究能力で重要な側面の1つは、ミスや失敗を隠そうとせずに認めることができることです。ライフサイエンス分野の研究者は、すべてを予測することが不可能であるということを誰よりも理解しているはずです。つまり、計画・予測・結果には何らかのエラー要素が常に含まれます。間違いを認めず、アプローチ法の変更に消極的な姿勢は、さらなる問題を発生させ、その先の方向転換をより難しくしてしまう可能性があります。

 

4. 先延ばしに対処して、まずはタスクを始める

先延ばしに関する研究では、物事の先延ばしは不安と密接に関連するメカニズムであると説明されています。タスクの先延ばしが問題となる際に「完璧主義」はあまり着目されません。それでは、完璧主義は先延ばしの原因になり得るのでしょうか?完璧主義は、精神病理学的症状や不適応状態と関連付けられることがあり、インポスター症候群(Imposter syndrome、詐欺師症候群)の重要な性格特性であるとされ[2]、メンタルヘルスに影響を及ぼし生産性を低下させる可能性があります。したがって、完璧主義は研究計画の停滞や遅延の大きな原因となる可能性があります。

しかし、仕事に関連した文脈で完璧主義が言及される場合、望ましい特性として述べられることが多いため、完璧主義的な特性に対峙するのは一筋縄ではいかないかもしれません。最初のステップは、自身の振舞いにおける完璧主義的な特性を認識することです。そして、それらが実際に不都合を生じさせているか否かを評価します。例えば、タスクを完遂するために完璧な状況が整うことを待ってしまう、あるいは細部にこだわりすぎて全体像を見逃してしまうといったように、完璧主義が裏目に出ている状況は様々な場面で観察されます。

多くの場合、物事を始める「正しい」タイミングなど決して存在しません。むしろ、一旦物事を開始して良い流れに乗ることができれば、想定よりも迅速に目標を達成できることに気付くでしょう。そうではない場合も、ゼロからスタートするよりも、あるいは募る不安のために何も始めないよりも、何かしらの不備を抱えながらも研究を進めていく方が望ましいでしょう。多少の不完全さを許容することで、研究意欲が削がれることを回避し、無駄な労力を防ぐことができます。

規模が大きく過酷なタスクを1人で完遂することはできません。1人でどうにかしようとすると、研究への熱意が削がれる可能性すらあります。当然、研究を始めたその日に、学位論文や投稿用論文を完成させることはできません。だからといって始めることをためらうべきではありません。計画を立案し、小さなステップを1つずつ開始して順次クリアしていくことは、道半ばでの小さな成功の喜びを得ることにもつながり、最終的な目標を達成するのに役立つでしょう。

 

5. 適切に休息を取る

自己管理(セルフケア)において、休息・休憩・睡眠は極めて重要なトピックであり、見落としてはならないポイントです。なぜ休息が重要なのでしょうか?例えば、睡眠中は覚醒時のニューロンの発火パターンが再生されることによって長期記憶を増強することから[3]、良質な睡眠による休息を取ることの重要性は無視することはできません。また、同様の結果は学習の合間の休憩でも得られることが報告されています[4]。すなわち、休息・休憩・睡眠を取る時間は、活動中に達成したすべての事柄を統合して強化する時間として重要であると考えられます。積極的に物事に取り組んでいない時に、異なる角度から研究課題の理解に至ることや、インスピレーションを得ることはよくあることです。古代ギリシアの科学者であるアルキメデスが、浴槽に入っていた時に王からの課題の解決方法を見つけた瞬間を考えればお分かりいただけるでしょう。

知的要求水準の高いタスクに対し、集中力を維持して毎日長時間に渡って取り組むことは不可能です。また、重要度の低いタスクを合間にこなして、ただ忙しいという感覚に陥ることも避けた方が良いでしょう。その代わりに本当の意味での休息をとりましょう。次にしなければならないことをあれこれ考え、単に手を休めているだけの状態を休息にカウントしてはいけません。

仕事とは金銭を稼ぐために費やす時間であると定義されることがあります。一方で、一般的に仕事の対極にあり、休息時間と捉えられる「レジャー(余暇)」もまた、自身を疲労困憊させ時にはストレスを感じる時間となる可能性があります。仕事以外の大事な活動に情熱を傾けて勤しむことは大切なことですが、時には何もしない時間を予定に入れておくことや、少なくとも特定の期間に予定を入れないようにすることも有益です。時間の限り生産的であろうとすることは、長期的には逆効果になる可能性があり、疲労困憊と燃え尽き症候群の原因となります。

 

 

結論

本ブログ記事を読まれた方々が、何らかの有益さを感じるとともに、同じような苦労を分かち合うことで少しでも気持ちが楽になっていただければ幸いです。多くの人々が学びつつ成長し続ける人生を求めますが、あなたのTo Doリストには常に未完了のものが存在するでしょう。また、新たに解決しなければならない問題も並行して発生します。未解決の課題や未完了のタスクは、目標達成への意識や意欲を生み出すと共に、目標に対するフラストレーションを同時に形成します。研究生活を送る際の大原則と自身の習慣を知ることで、フラストレーションを最小限に抑えつつ、研究活動における生産性の向上や持続性の改善への道を拓くのに役立つでしょう。

 

若手研究者向けのキャリアやライフプランに関するその他のヒントを、プロテインテックホームページ(英語版:www.ptglab.com)のECR(Early Career Researcher)Hubで紹介しています。

 

参考文献

[1] F Biwer, et al. Understanding effort regulation: Comparing 'Pomodoro' breaks and self-regulated breaks. Br J Educ Psychol. 2023 Aug:93 Suppl 2:353-367.

[2] C Steinert, F Leichsenring, et al. Procrastination, Perfectionism, and Other Work-Related Mental Problems: Prevalence, Types, Assessment, and Treatment-A Scoping Review. Front Psychiatry. 2021 Oct 11:12:736776.

[3] S Brodt, M Inostroza, N Niethard, J Born. Sleep-A brain-state serving systems memory consolidation. Neuron. 2023 Apr 5;111(7):1050-1075.

[4] E J Wamsley. Memory Consolidation during Waking Rest. Trends Cogn Sci. 2019 Mar;23(3):171-173.