GFP-Booster:免疫蛍光染色で良好な画像を得るための抗GFP VHH抗体(Nanobody®)

高い解像度&良好な組織浸透性を実現します。


緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)が発見されて以来、ネイティブな細胞内環境に存在するタンパク質を研究するためのツールとして、GFPは蛍光顕微鏡観察の分野において多岐にわたり用いられています。しかし、GFPはシグナル強度が低い、光退色しやすい、化学的処理を施した後にシグナル強度が減弱する等、いくつかの特有の制約を有します。本稿で解説するGFP-Boosterは、蛍光色素と結合した抗GFP VHH抗体(Nanobody®)であり、免疫蛍光染色(IF:immunofluorescence)においてGFP融合タンパク質のシグナルを増強、安定化、復元することが可能な製品です。通常の抗体よりも分子量が小さいGFP-Boosterを免疫蛍光染色(IF)に使用する利点、およびGFP-Boosterが認識するGFPバリアントと蛍光色素等、GFP-Boosterの概要について解説します。

共焦点顕微鏡イメージング(GFP-Boosterを使用したTOM70eGFP発現細胞の免疫蛍光染色、DAPI染色)

Tom70-eGFPを一過性トランスフェクションにより発現させたHeLa細胞の免疫蛍光染色。緑:GFP-Booster Alexa Fluor® 488(カタログ番号:gb2AF488)。青:DAPI(核)。撮影:共焦点顕微鏡(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門)、スケールバー:10µm。

  1. 蛍光顕微鏡観察におけるGFPの制約とは?
  2. GFP-Boosterとは?その利用方法とは?
  3. サイズについて:分子量が小さいGFP-Boosterの利点とは?
  4. GFP-Boosterが組織浸透性に優れる理由とは?
  5. GFP-Boosterが標識エピトープとの結合誤差を最小限に抑える理由とは?
  6. GFP-Boosterで検出できる蛍光タンパク質の種類とは?
  7. 販売中の蛍光色素標識体のラインアップとは?
  8. GFP-Boosterの検証方法とは?

 


  1. 蛍光顕微鏡観察におけるGFPの制約とは?

GFPはタンパク質を研究するための非常に優れたツールであり、科学研究に多大な影響を与えています。2008年には「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその応用」はノーベル化学賞を受賞し、数多くの新たな科学的発見をもたらした業績に対してその栄誉が称えられました。多くの場合、GFPは「タグ」として目的タンパク質(POI:protein of interest)と融合され、生細胞や生物におけるタンパク質の発現、局在、動態の研究に使用されます。

 

しかし、GFPのような蛍光タンパク質にはいくつかの制約が存在します。

    • 通常、生理学的レベルでGFP融合タンパク質を発現させた細胞を固定して得られたサンプルの蛍光シグナル強度は非常に小さく、検出が困難な場合があります。
    • GFPは退色しやすい傾向があります。一般的に、GFPやGFP誘導体は耐光性や量子収率に乏しく、超解像顕微鏡観察に適していません。
    • 細胞増殖アッセイのためにEdU Click-iT™試薬等で処理する、FiSHのために熱変性させる、その他の過酷な処理を施す等の様々な細胞生物学的手法によってGFPは変性し、蛍光シグナルが観察できなくなる場合があります。

 

GFP-Boosterは、GFP融合タンパク質の蛍光シグナルを再活性化、安定化、増強することで、GFPの制約を解決します。

 

  1. GFP-Boosterとは?その利用方法とは?

GFP-Boosterは、蛍光色素が結合した小型のGFP抗体フラグメントからなります。この抗体フラグメントは、VHH抗体(別名:Nanobody®)と呼ばれています。VHH抗体(Nanobody®)は非常に小さな抗体フラグメントです。VHH抗体(Nanobody®)はアルパカ、ラクダ、ラマ等のラクダ科動物から発見された「重鎖抗体(Heavy chain antibody、Heavy chain-only antibody)」に由来します。重鎖抗体には軽鎖が存在せず、単一のタンパク質結合ドメインでエピトープに結合します。GFP-Boosterは一価(単量体で機能するシングルドメイン抗体)で、Alexa Fluor®、ATTO等の様々な蛍光色素を結合した製品をラインアップしています。GFP-Boosterは、GFPタグ融合タンパク質に特異的に結合し、その蛍光シグナルは一般的な免疫蛍光染色(IF)アプリケーションで落射蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡等を用いて検出することができます。

GFP-boosterの由来(アルパカ、アルパカ重鎖抗体、VHH抗体、GFP-Boosterのイラスト)

緑:VHH抗体(Nanobody®)、赤:蛍光色素、青:抗体Fcドメイン

 

  1. サイズについて:分子量が小さいGFP-Boosterの利点とは?

従来型の抗体は、2本の重鎖(約50kDa×2本=100kDa)と2本の軽鎖(約25kDa×2本=50kDa)からなり、その分子量は最大で約150kDaになります。多くの場合、免疫蛍光染色(IF)では一次抗体と二次抗体を用いた検出系が利用され、一次抗体と複数の二次抗体からなる複合体の分子量は300kDa以上になります。対照的に、VHH抗体(Nanobody®)の結合ドメインはわずか~15kDaで、組織浸透性に優れ、結合誤差を最小限に抑えることができる等、免疫蛍光染色(IF)を実施するにあたっての複数の利点を備えています。

GFP-Boosterと、従来型の一次抗体二次抗体複合体の比較概要図

概略図:GFP-Booster(緑) vs 従来型の一次抗体(青)および二次抗体(水色)(赤:標識蛍光色素、ピンク:エピトープ)

 

  1. GFP-Boosterが組織浸透性に優れる理由とは?

GFP-Boosterは従来型のIgG抗体よりも約1/10程度の分子量を示す小型の抗体です。サイズが小さいことから、細胞内や組織の混雑環境下で良好かつ迅速に組織へ浸透します。特に器官の染色や生体全体の染色を実施する場合、浸透率は撮影画像の画質やインキュベーション時間に直接的に影響を及ぼす重要な要素です。

従来型GFP抗体とGFP-Boosterを比較したイメージング画像(組織浸透性に優れるGFP-Boosterは多くのシグナルが検出される

分子量が小さいと組織浸透性が向上する—Nano-BoosterのようなVHH抗体(Nanobody®)は従来型の抗体よりも組織浸透性が優れています。
従来型GFP抗体とGFP-Boosterの比較:GFP-Boosterの方が組織への浸透性が優れていることを示しています。(Cx3Cr1-EGFPを発現する遺伝子組換えマウスのイメージング。EGFPシグナルを従来型のGFP抗体(上図)、またはGFP-Booster(下図)で増強)

 

  1. GFP-Boosterが標識エピトープとの結合誤差を最小限に抑える理由とは?

特に超解像顕微鏡撮影を実施する際、蛍光色素とエピトープ間の距離は考慮すべき重要な要因となります。小型のGFP-Boosterはエピトープ‐標識色素間の結合誤差を最小限に抑えることができ、目的物質の正確な局在を明らかにします。従来型の一次抗体と二次抗体の複合体では蛍光色素とエピトープ間の距離は約25nmとなるのに対し、GFP-Boosterではその距離は約2nmとなります。

3種類の蛍光色素標識抗体について、エピトープと蛍光色素間の距離を示したイラスト(VHH抗体は2nm、一次抗体は15nm、一次抗体二次抗体複合体は25nm)

エピトープと蛍光色素間の距離
緑:蛍光色素標識VHH抗体(Nanobody®)、青:蛍光色素標識一次抗体(IgG)、青&水色:一次抗体(IgG)(青)および蛍光色素標識二次抗体(IgG)(水色)の複合体(赤:蛍光色素、ピンク:エピトープ)

 

  1. GFP-Boosterで検出できる蛍光タンパク質の種類とは?

GFP-BoosterはGFPだけでなく、多くのGFP誘導体と結合します。

    • CFP
    • AcGFP、EGFP、GFP、GFP S65T、mClover、Monomeric EGFP A206K、pHluorin、PA-GFP、Superfolder GFP、TagGFP、TagGFP2
    • Citrine、Ecitrine、EYFP、Venus、YFP、Ypet

GFP-BoosterはmNeonGreen、RFP、mCherryには結合しません。

 

  1. 販売中の蛍光色素標識体のラインアップとは?

各実験系で最適な蛍光色素を利用できるように、様々な蛍光色素を標識したGFP-Boosterを販売しています。

蛍光色素標識体であるGFP-Boosterは以下の利点を提供します

    • 共焦点顕微鏡や通常の顕微鏡観察で強いシグナルを観察できます。
    • STED(Stimulated emission depletion)顕微鏡法、STORM(Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)法、MINFLUX(minimal photon flux)等の超解像顕微鏡観察を実施する際の選択肢が広がります。
    • 常に標識度(DOL:degree of labeling)が保証され、高解像度の画像撮影を可能にします。

特殊なアプリケーションを実施する場合、クロモテックの未標識抗GFP VHH抗体(カタログ番号:gt)に特定の色素をご自身で標識することができます。VHH抗体(Nanobody®)を標識するための一般的な方法については、プロテインテックのブログ「Conjugation of fluorescent dyes to Nanobodies」に詳細な情報を掲載しています。

 

  1. GFP-Boosterの検証方法とは?

GFP-Boosterは、徹底的な特性解析と検証試験を実施したモノクローナルVHH抗体(Nanobody®)を使用した製品です。GFP-Boosterは遺伝子工学的な手法により検証され、GFPを発現する細胞株とGFPを発現しない対照細胞株を用いた免疫蛍光染色(IF)等の試験を実施しています。GFP-Boosterは組換え抗体として産生され、厳格な品質管理(QC)ガイドラインに従い各製造ロットごとに検証試験を実施しています。このような生産体制によって、再現性の高い結果を得るために重要となる、高いロット間一貫性を保証します。