ゲスト寄稿 | いつ、どこで? 脳がエピソード記憶をどのように処理するか

神経科学者は、記憶における「どこ情報」を処理する脳回路を特定しました。脳が「いつ情報」どのように想起するかを解き明かすことで、私たちは記憶についてより深く理解することができるでしょう。

Deborah Grainger著

マサチューセッツ工科大学(MIT)の神経科学者たちは、最近、記憶の「どこで」に関する側面を処理する新しい脳回路を発見しました。これを、脳が「いつ」の要素をどのように記憶しているかに関する彼らのこれまでの研究と組み合わせることで、記憶の構築について多くのことがわかってきています。

ある出来事を思い出す場合、いくつかの別々の情報を組み立て直しています。何が起こったか、どのように感じたかだけでなく、それがいつ、どこで起こったかのデータも照合するのです。この記憶の形態は、エピソード記憶と呼ばれています。これは、あなたの過去の多くの経験から特定の記憶を想起する能力です(これは認知的な存在にとって間違いなく有用です)。

記憶処理に極めて重要な役割を果たすことでよく知られる脳部位である海馬は、エピソード記憶の形成に関与しています。この機能は、以前から認識されていましたが、海馬がどのようにして、新たに生じた記憶の「いつ」と「どこで」を処理するのかは正確に知られていませんでした。

特定の入力からの「いつ」と「どこで」の分割は、海馬自体の中で起こると考えられていました。しかし今回、MITのチームは、この情報が2つの別々のストリームとして海馬に入ることを発見しました。これらのストリームは、嗅内皮質と呼ばれる脳の別の領域を起源とするものです。

ストリームの中の島(と海)

嗅内皮質は海馬の基部にあり、海馬と大脳新皮質(脳の最外層)とをつなげています。ここには、格子細胞最近のノーベル賞受賞研究の鍵となったものでもあります)、頭方位細胞、その他様々な種類の場所細胞など、いくつかの非常に興味深い細胞集団が存在しています。しかし、単に内部のグローバルポジショニングシステムだけではなく、嗅内皮質は記憶の記録と想起の両方に関与していることも認識されています。

脳の内側面像を示す画像。嗅内皮質は左下の領域28と34にほぼ対応しています。 (Henry Gray’s Anatomy, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gray-Brodman-Entorhinal_Cortex_EC_.png)

ノーベル賞を受賞した利根川進氏が率いるMITのチームは、「いつ」と「どこで」の信号を処理する嗅内皮質の2種類の細胞を同定し、特徴を明らかにしました。彼らはこれらの細胞を、それぞれ「島」細胞および「海」細胞と呼んでいます(島細胞は小さなクラスターを形成し、その周りには海細胞が集まっていることから、そう呼ばれています)。

神経マーカー

島細胞と海細胞は、特定の神経マーカーの発現によって区別できます。海細胞はリーリン陽性の星状細胞(樹状突起が星のような形をしている細胞)として特定できるのに対し、島細胞は錐体ニューロン(細胞体が三角形の形をしていることからその名がついた)で、カルビンジンD-28Kとウォルフラム症候群1(ウォルフラミン、またはWFS1)と呼ばれるタンパク質に染色陽性を示します。ウォルフラミンの発現は全身に遍在していますが、利根川氏のグループは、これが嗅内皮質では島細胞にしか存在していないことを発見しました。同グループは、Proteintech社の抗WFS1抗体(11558-1-AP)を用いて、数報の論文で島細胞を選択的に染色しています。

A)錐体細胞とB)星状細胞のゴルジ染色の例。 (Churchill et al. BMC Neuroscience 2004 5:43 doi:10.1186/1471-2202-5-43 Figure 1. https://en.wikipedia.org/wiki/File:Pyramsdal-and-Spiny-stellate-cell.JPG).

利根川グループは、2つの細胞集団をそれぞれの特異的マーカーで染色することで、脳の他の部分への接続の軌跡をマッピングすることができました。島細胞と海細胞は、近接しているものの、標的が異なることが明らかになりました。島細胞は海馬のCA1領域につながっており、一方、オーシャン細胞は海馬の歯状回とCA3領域に接続しています。明らかに、これら2つの細胞タイプは、この研究室によって決定される、別々の機能を持っていました。

エピソード記憶に光を当てる

利根川グループは、島細胞と海細胞の機能をさらに詳しく調べるために、カルシウム(ニューロンのスイッチが入っているかどうかを示す基本的な指標)と結合すると蛍光を発する化学トレーサーでそれらの細胞を標識しました(1,2)。これによって、2つの環境の区別や時間内のイベントのリンクが要求される様々なタスクを設定したマウスにおいて、各細胞タイプがアクティブになっているかどうか、そしていつアクティブになっているかが、区別できるようになりました。マウスを2つの異なる環境で切り替えると、海細胞の発火パターンに一致した変化が記録されました。このような環境特異的な発火パターンは島細胞では観察されませんでしたが(1)、それより、動物のスピードの変化に敏感でした(2)。

MITチームはまた、光を使ってニューロンを制御できる強力な分子ツールであるオプトジェネティクスを利用して、分離した状態で片方の細胞タイプの活動をブロックしました。島細胞の活動をブロックすると、マウスは「痕跡恐怖」の記憶障害を示すことがわかりました。痕跡恐怖とは、特定の手がかりによって誘発される恐怖で、単独では無害だが、一定の間隔を置いた後、足部ショックのような不快な刺激と対をなして起こると有害なものです。マウスは、音が鳴った後すぐにショックが起こることを覚えていませんでしたが、環境に対する文脈的恐怖を維持していました。つまり、ショックが起こった場所を覚えていました(3)。一方、海細胞を操作した場合、マウスは環境と、そこで足部ショックを受けた後の恐怖とを関連付けることができませんでした(1)。

したがって、私たちの記憶の「時間情報」と「位置情報」には、それらを処理する専門家がいるようです。嗅内の島細胞と海細胞は、記憶を想起する上で極めて重要な2つの要素の専用プロセッサであり、時と場所を記憶できるようにしています。

関連製品

抗原 カタログナンバー アプリケーション
Rabbit anti-WFS1 polyclonal 11558-1-AP siRNA, ELISA, IP, IHC, WB

参考文献

1. Kitamura T, Sun C, Martin J, Kitch LJ, Schnitzer MJ, Tonegawa S. Entorhinal Cortical Ocean Cells Encode Specific Contexts and Drive Context-Specific Fear Memory. Neuron. 2015 Sep 23;87(6):1317–1331.

2. Sun C, Kitamura T, Yamamoto J, Martin J, Pignatelli M, Kitch LJ et al. Distinct speed dependence of entorhinal island and ocean cells, including respective grid cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jul 28;112(30):9466–9471.

3. Kitamura T, Pignatelli M, Suh J, Kohara K, Yoshiki A, Abe K et al. Island cells control temporal association memory. Science. 2014 Feb 21;343(6173):896–901.

Blog

Posted:
6 November, 2015

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